米経済誌Forbes(フォーブス)は、「アメリカの大恐慌時代にハリウッドが黄金時代を迎えたという事実からわかることは、例え危機的な状況であっても、人々は娯楽を求めていることです」と伝えています。危機的な状況においては、多くの分野が困難な状況に陥っているにもかかわらず、エンターテインメントの需要は急激に増加するということを物語っています。2020年も例外ではありません。
- Netflixの株価は過去6か月間、ナスダックで100ポイント近く上昇し、2020年上期だけで、2019年とほぼ同数の新規登録者数を記録しました。
- Facebook Gamingは2019年4月から2020年4月までの期間に前年比で238%増となりました。
- 世界最大のストリーミング・プラットフォームのTwitchは、第1四半期に30億時間のストリーミングで歴代記録を更新し、第2四半期にはさらに記録を更新してほぼ倍増の50億時間となりました。
新型コロナウイルス感染症が拡大する中、顧客が求めるエンターテインメントの種類は、いくつかのカテゴリーに分かれました。例えば現実逃避(つまり純粋な娯楽)、繋がり、そして教育です。ブランドがNetflixやTwitchを追随する必要はありませんが、このようなカテゴリーにおけるブランドコンテンツの作成方法を理解することは、当面のカスタマーエクスペリエンス戦略の重点項目となっていくでしょう。
コロナ危機をきっかけに人々は優先順位を見直すようになり、最も大切なもの、つまり生活の必需品である食料、休息、住居を重視するようになりました。これらが整ってこそ、雇用の安定を図ることができ、最終的にはマズローの欲求五段階説にもあるように、人間関係を重視するようになっていきます。
マズローの欲求五段階説の一番下の階層には休息(生理的欲求項目)があります、これは生産あるいは稼働していない状態を指しています。現在消費されている娯楽の多くはこのカテゴリーに属しています。コンテンツはユーザーを引き込み、ある程度の双方向性(例:ゲーム)は備えているものの、一般的には逃避を目的とした消費です。つまり、自身を周りの環境から切り離し、リラックスしたり、休息したりすることが目的なのです。一方、身体を休める以外の効果として、ユーモアをセラピーの観点から研究する協会の研究においては、上述したようなコンテンツによってコロナ起因の精神的ストレスが緩和されるという症例が最大39%にも上ると報告されています。
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ブランドが現実逃避を作るために注力すべきこと
- たわいもない、かつ目新しくて武骨なことに挑戦する。笑うことで血の巡りがよくなり、それによって緊張が和らぎ、より安らかな心身状態を作りだすことができます。このような効果を念頭に定期的に一連のコンテンツを作成することで、相乗効果が得られます。何か楽しいことが待っている、と考えるだけでも、顧客はストレスを軽減することができるのです。
- 現実味に溢れたファンタジーの提供。ファンタジーは、創造力を駆使して今ある現実から逃避し、無限の可能性を生み出すことのできるストーリーテリング形態です。ファンタジーはユーザーの創造力を刺激します。オーディエンスを引き込む没入型環境があればなお良いでしょう。Behavioral Sciences(行動科学)に掲載された研究結果によると、ストレス過多の状況では創造力が高い癒し効果を発揮するということです。
没入型世界の開発。新型コロナウイルス感染症が拡大する中、ゲームが人気となった理由の一つは、日々のストレスから離れ、コロナのない別の現実世界で楽しむことができるからです。また、ゲーム心理学の研究によると、ゲーム環境は「現実世界」に立ち向かう方法を見つける際に有益であるとも報告されています。見方によっては、没入型環境は状況認識および感情認識の発達を促進するとも言えます。
経済危機下ではきまってみられるように、雇用への懸念が高まっています。世界経済フォーラムが発表した2020年5月の報告書によれば、これは現在コロナウイルスに次いで世界で最も深刻な問題です。雇用に不安があったり、失業に苦しんだりしている多くの人々は、確かな仕事を得たいという思いから、「プランB」を選択します。過去の不況時の行動に関する調査結果を参照すると、労働市場で目を引くような競争力のあるスキルを身につけるようと、教育コンテンツを探したり、より高度な教育を受けたりすることに関心が高まるという傾向があります。
現在の不況下においては、大人だけが教育コンテンツを求めているわけではありません。これは、過去の不況時とは若干状況が異なっています。例えば、学校に登校できず、通常の学習環境では勉強できなくなった生徒達は、保護者が仕事等に集中できるよう、持続的に集中できるようなリモート学習コンテンツの必要性が高まってきています。
エデュテインメント(教育と娯楽の融合)を構築するには
- 没入型仮想現実の構築。現実に基づいた没入型環境は、探索および発見が可能なデザインとなっており、セルフガイド型教育に最適です。米国のノースカロライナ州立大学の研究では、生徒の習熟度が改善したことが実証されました。また、国立研究開発法人 情報通信研究機構の研究では、没入型環境が学習者の遊びや実験の進捗を促進すると実証されています。
- 専門知識の提供。一部のスキルやレッスンは、より高度な研修や何時間にも渡る学習が必要となりますが、短時間で終わるものもあります。例えば、コロナ感染症が拡大する中、Airbnb(エアビーアンドビー)は料理や歴史などの各分野の専門家が知識を共有できるようなプラットフォームを開発しました。アドバイス動画、TikTok(ティックトック)、Instagram Stories(インスタグラム・ストーリーズ)は15秒から2~3分の短い時間の動画を共有できるため、コロナ前から人気を博していました。
- プラットフォームまたはパートナーシップを作る。ブランドのエデュテインメントを作ることよりも重要なのは、ブランドとして、他のクリエイターの声を後押しすることです。これはビジネス全体を構築するという意味ではなく、自分たちのブランドがどのような段階にいるのか、他の専門家と共有するという意味です。共創することで、他の人の学習を助け、より多くのコンテンツを更に速く作成することが可能となります。
最後に、新型コロナウイルス感染症拡大によって、世界中でつながることへの必要性が喚起されました。つながりは、マズローの欲求五段階説の階層の中では若干上部に位置し、平時にはあまり必要ではない反面、現在のような苦難の時代には必要不可欠であると主張する人が多いかもしれません。このような時代の環境や状況に起因したストレスに加え、孤独感は物理的な痛みの感覚と同じ脳の部分を活性化します突き詰めると、孤独はまさに痛みをもたらすのです。
コロナ前の時代においても、孤独の問題は既に蔓延していました。Futurityサイトに掲載された、米シカゴ大学のジョン・T. カシオポ教授の研究によると、「世界の人口の約5%から10%が、絶えず、頻繁に、もしくはいつも孤独を感じている」「また30%から40%の人が、常に孤独を感じている」といいます。孤独感の緩和のため、エンターテインメントについての好みが、人と人とのつながりや毎日の一瞬一瞬がより円滑になるようなプラットフォームに焦点が当たるようになっていきました。
コミュニティ形成のために
- 同時体験の作成。バーチャル上であっても、誰かと体験を共有することで、他の参加者の間にソーシャルカレンシーや絆が生まれます。こうした貴重な経験は社会的距離が生み出す喪失感を埋める手助けとなっています。それによって、複数の人がゲームをしたり、コンテンツを視聴したり、あるいは一緒にコンテンツを作成したりできるプラットフォームが注目されるようになりました。共有された経験が育むつながりやコミュニティを促進することが目標です。
- 日々の、何気ない日常を祝う。ほとんどの人は今、人生が同じことの繰り返し、または一定の周期を繰り返しているだけと感じていることでしょう。他方で、それが顧客の暮らしの一部となり、会話ではまさに日常に関する話題が交わされています。新型コロナウイルス感染症拡大の時期は平凡に感じられますが、生活の大部分はこうした平凡なもので構成されており、実際には他の人との接触において、最も多く語られている話題でもあるのです。そのことが、Instagram Live(インスタグラムライブ) のようなカジュアルな会話ができるチャンネルの成長に拍車をかけているのでしょう。スタジオや編集を使って完成度にこだわるのではなく、つながりに力を入れることで、日常のささいなことに着目するという新たな利点が生まれ、また、より早くコンテンツを作成することが可能となります。
ハリウッドが大恐慌の時代に黄金期を経験し、何百万人もの人々が現実逃避をしたように、世界的な新型コロナウイルス感染症の流行をきっかけとしたブランド・エンターテインメントの時代において、何十億人もの人々が現在抱えているストレス要因に対処できるようになりました。あなたのブランドはストレス軽減にどのように取り組んでいきますか。
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