ユーザーと業界を徹底的に理解し顧客の事業を「先導」 オプトの展開するLTVM(LTVマーケティング)とは?【代表取締役社長CEO・金澤氏インタビュー】

オプト代表取締役・金澤大輔氏

  2024年4月にグループ連結子会社の再編や執行体制を変更した株式会社オプト。永続的な顧客の事業成長への貢献を通じて、産業変革(IX:Industrial Transformation)を起こし、社会課題を解決することを自社の存在意義として掲げる同社では、「顧客の顧客への価値提供」を中心に据えたLTVマーケティング(LTVM)を推進するという。同社代表取締役社長CEO・金澤大輔氏に、LTVMの推進に至った経緯や、従来のLTVとの違いについて取材した。

日々重要度を増す、ユーザーとの「永続的な」関係性の構築

—— 「顧客の顧客への価値提供」は、一般的なLTVとどのように異なるのでしょうか。

株式会社オプト代表取締役社長CEO・金澤大輔氏(以下、「金澤」):従来のLTVは「どのように顧客単価を上げていくか」という手法に主眼を置くものが多く、ユーザーとの永続的な関係構築というプロセスの部分は、あまり顧みられることがありませんでした。しかしながら、インターネット広告の市場拡大や生成AIの台頭などビジネス環境の変化が激しさを増す昨今では、「企業としてどのように顧客と向き合うか」というスタンスが非常に重視されています。

オプト代表取締役・金澤大輔氏

株式会社オプト代表取締役社長CEO・金澤大輔(かなざわ だいすけ)氏
2005年株式会社オプトに入社。2013年より、執行役員に就任。2015年より、代表取締役社長 CEOに就任。2017年より、株式会社オプトホールディング(現株式会社デジタルホールディングス)上席執行役員に就任。2021年3月より、株式会社デジタルホールディングス取締役グループCOOに就任。2024年4月より、同社取締役兼株式会社オプト代表取締役社長 CEOに就任。

 そのため、今後は「ユーザーのありたい姿」と「企業の目指したい姿」が重なるマーケティング施策を展開することが重要になってくると判断しました。LTVとは、企業側が得られる利益を示す観点ではなく、これまで以上にエンドユーザーを理解し、真に顧客に寄り添った支援に注力し、エンドユーザーへの本質的な価値提供に重きを置くことで、短期利益ではなく、顧客企業の永続的な事業成長の実現を目指す手段であると考えています。

—— ファンマーケティングでロイヤリティを高めるという企業も増えてきましたが、そうした施策を重点的に行う企業との親和性は高そうです。

金澤:ファンマーケティングももちろんですが、顧客は企業やブランドの持つ世界観やメッセージの一貫性を非常に重視しています。そういったところも含めて「デジタルマーケティング」なのだという点は意識しなければなりません。

 デジタルネイティブの世代がどんどん増えていく一方で、日本全体の人口はそれ以上に減っていきます。Cookie規制などマーケティングを取り巻くインターネット環境も変化する中で、今後は新規顧客と接点を持つことがさらに難しくなるでしょう。

 デジタルマーケティングにおいても、成約件数やCPAにこだわると短期的な利益は出るかもしれませんが、顧客が永続にサービスを選び続けてくださることはありません。業種・業態ごとに時間軸の違いはありますが、さまざまな施策を通じて顧客と向き合い、一人ひとりを深く理解していく必要性が非常に高まっていると感じますね。

—— 個人情報の取り扱いやターゲティングが難しくなっている昨今、いかにロイヤルカスタマーとなっていただくかを課題とする企業も多いように感じます。こうした潮流も、LTVMへの回帰へとつながっていったのでしょうか。

金澤:クライアントからのニーズも大きな理由の1つですが、経営層がデジタルマーケティング領域にハンズオンするケースが増えたという背景もあります。私たちもデジタルマーケティング担当者のみならず、経営層から相談をいただくことが非常に増えてきました。しかし、現場での目標(昨対の売上や単価など)と、経営層が求めていること(永続的な顧客との関係性構築)が違うことが多々あります。

 私たちはこの2つの視点を結びつけ、1つの線にするための結節点になるソリューションやサービスを提案することで、中長期的な経営計画と足元の施策をしっかりつなぎ合わせて永続的な顧客の事業成長にコミットメントしていこうと考えています。

顧客事業を理解し、ビジネスを「先導」する

—— 具体的に、どのような形で企業を支援されるのでしょうか。

金澤:私たちは「近く、深く、速く、そして永く。顧客を先導するグロースリーダーへ。」というコンセプトを掲げています。

 「近く」はクライアントの事業をしっかり理解したうえで、クライアントの事業に寄り添い、事業成長にコミットしていくという姿勢です。クライアントが達成したい目標を理解・実現するためには事業のより近くでクライアントのビジネスパートナーとなっていかいなければなりません。当社で提供するインハウス事業や経営支援などのサービスは、クライアントの経営者や組織目線での壁打ちや提言ができる点が強みです。

 「深く」は産業構造やクライアント、クライアントの先の顧客をデータで深く理解することです。顧客の先の顧客を深く知ることで、クライアント自身も認識していなかった課題や気付きを提言できます。当社では業種に深い知見を持った担当者がマーケティング支援を行っており、クライアントや業界全体が抱えている課題について、業界の構造を理解したうえでデータを基にした提案を行います。

 「速く」は広告運用を含めたマーケティング施策のPDCAを速くすることです。マーケットの変化が激しい昨今では、非常に速いサイクルでコミュニケーション施策を実行していくことが求められます。私たちは「どれだけ早いタイミングでエンドユーザーとの接点を持てるか」「エンドユーザーとどのようにリレーションを構築していくか」、そして「次の施策につなげていけるか」を重要視しています。

 「永く」はエンドユーザーから永続的に選ばれ続けるために、サービスや製品を利用してくださったエンドユーザーに対して、素敵な顧客体験を提供し続けることで関係性の構築を図るという姿勢です。具体的にはユーザー向けのサービスや、ミニアプリの開発を提供することが多いですね。

 現在では、私たちがクライアントが気づいていなかった課題を先に発見し、クライアントに対して方針を示し先導していくことが大いに求められる時代になっています。私たちはこのLTVMの実践を通じて、事業を先導するビジネスパートナーやマーケットリーダーになっていきたいと思っています。

—— 顧客事業のLTVMを実践されるにあたって、企業全体として取り組まれたことがあればお教えください。

金澤:まず、これまで当社がクライアントに提供してきた「広告効果の最大化を目指し、成長志向企業の事業成長に貢献する姿勢」は変わりません。しかし、広告を通じたマーケティング支援だけでは「エンドユーザーをより深く理解し、エンドユーザーとクライアントが永続的な関係性を構築するための価値を提供する」ことをやりきれない場合があります。

 そのため、外部のパートナー企業に当社グループへジョインしていただき、DX支援専門の企業や新規事業開発に特化したグループ会社を統合することで、社内体制を強化しました。DX支援や新規事業開発は広告運用のアプローチとは全く違うスキルが必要となるため、起点となる0→1の開発ノウハウや、顧客体験の向上に向けたDX支援のノウハウを持ったメンバーで一つの目標に対して取り組めるようになったことは大きかったです。

 一方で、クライアントの事業をどう成長させるかを「壁打ちしながらアップデートする」という部分は、広告運用を得意とする人材のバリューが最も発揮される領域です。広告運用のノウハウを持つ人材はクライアントワークに振り切って、事業そのものを先導していくことが望ましいと考えています。

 今後は新規事業開発やDX支援のノウハウと広告運用のノウハウを掛け合わせることで、新たな世界観を実現したいと思っています。そして実際に、その世界を実現できるさまざまなスキルセットを持った人があふれるダイバーシティ組織になってきたと感じていますね。

異業種経験者が組織内にいる「視野の広さ」が強み

—— 今後はチームメンバー1人1人の業界理解を深め、クライアントのニーズにあわせて業界に特化した担当者を中心としたチームを編成し、支援を行うという形になるのでしょうか?

金澤:その通りです。クライアントの要望に応じて、どこに注力すべきかを見極めながら各チームをアサインしていくため、今まで以上にチーム力が求められます。クライアントも、今までは各領域ごとに専門の部署があるという「縦割り構造」の企業が多かったため、企業の掲げている目標に対し、事業目標がバラバラになっているという課題を抱えたクライアントもありました。

 経営層と私たちが直接対話する機会も増えたため、目標設定のあり方や組織構造についてもクライアントと一緒に目線をあわせながら目標を作っていくことが増えると考えています。

—— 専門店と協業し、業界に特化した広告サービスを提供するという代理店も増えています。こうした潮流に対して、どのように差別化を図るのでしょうか。

金澤:業界ごとの課題に対して、異なる業種・業界からの改善策を提案できる点は当社ならではの強みになると思っています。1つのノウハウが別の業種で生きることは結構よくあります。

 たとえば化粧品業界とD2Cや通販業界は相性がいいですが、なかにはデジタルと実店舗での施策の連携がうまくいっていないという課題を抱えているブランドもあります。私たちのような異業種からのアプローチが可能な企業であれば、こうしたブランドに対して、実店舗を重視する小売店のノウハウを提案・活用してオンライン施策を考えるなど、より効果的な施策の提案ができるのです。

—— クライアントの業界を深く理解するために、どういった取り組みをされていらっしゃいますか。

金澤:各業種・業態の課題について社内で情報連携できるようにしていますね。各社ごとの個人情報や顧客情報に一線を引くことは当然ですが、一方でノウハウを含めた考え方や構造の共有については、むしろクライアントから「どんどんしてほしい」と要望いただくことが多いです。

 施策の進め方に関しても、業種・業態によって最善なアプローチの仕方や課題感が異なります。たとえば不動産業界なら、本社の人だけに説明すればいいわけではなく、現場の職員への説明が重要です。「モデルルームにいかに来店してもらうか」など、現場の職員がメリットを感じることまで考え抜いたうえで施策を提案することが望ましいため、机上の空論的な「正解」を押し付けても、施策を実行することができません。

 日本の産業構造は複雑ですから、デジタル化もなかなか進みません。だからこそ、業界ごとの構造を知ることではじめて事業を成長させられるということがここ数年の学びです。

アジャイル型の体制で施策サイクルを高速で回すことが肝要

—— LTVMの思想を主軸に据えた施策を成功させるためには、何がカギになるのでしょうか。

金澤:上層部のリーダーシップやマーケティングへの理解はもちろんですが、何よりも「確固たる意志ありきの事業計画」が不可欠ですね。企業としてどういう状態を目指していくのか、どのような人にどういったメッセージや体験を届けるのかという事業の軸を明確にしなければ、その企業の「色」は出せません。

 施策のサイクルを高速で回すという点では、ウォーターフォール型よりもアジャイル型のシステムのほうが良いと思います。アジャイル型であれば最初に立てた仮説が間違っていたとしても修正できますが、予算やベンダーなどがトップダウンで決まっているプロジェクトでは身動きが取れなくなってしまう場合があります。

 当社の支援においても、「限られたアセットで何をやりたいのか」「実践するためには何が必要なのか」をクライアントとしっかり対話しつつ、適切なマーケティング施策の運用を心がけています。

—— 最後に、貴社の今後の展望をお教えください。

金澤:このLTVMという世界観を形にすることで、まず私たち自身の広告業界のありたい姿をアップデートし、産業変革を目指していきます。

 LTVMにおいては、全てのデータをお互いに開放し合いながら、ノウハウを全て提供していくことが求められます。今までのマージンモデルの広告は、成果とナレッジが見えづらい「情報の非対称性」のビジネスモデルでした。しかし、従来のやり方では事業計画とマーケティング施策にギャップが生まれがちな状態は変わりません。

 そのため、LTVMを実践することでクライアントと透明性のあるフェアな関係を築き、施策の実行も含め責任をもってしっかりとやり切ることが非常に重要だと思っています。私たちがこの世界観を実践することで、業界や産業の構造も変革し、新たな価値を創造できるよう取り組んでいきたいです。

編集後記

「日本の産業構造として、製造と営業出身の人が経営ポジションにつくことが多いという面は令和の時代でも変わっていない」と語る金澤氏。こうした構造も含め、オプトがクライアントの事業を先導して支援することでビジネスは成長すると自信をのぞかせた。

 

「私たちが一緒になって汗をかいて手を動かすので、汗をかいている者同士がしっかりと連携するという構造をつくりたい」と意欲を見せる金澤氏。同じ目線で事業に臨み、業界や企業の理解を深めるために経営層向けの勉強会を主催することもあるという。

 

クライアントの事業を先導し、さらなる発展に必要な危機感や視点も提供するというオプト社。真にクライアントとその先のエンドユーザーの目線に立つことで、オプトもクライアントとの中長期的な関係を築きあげ、共存共栄を実現する構えだ。

取材・構成:MARKETIMES編集部・中島佑馬