2023年7月にリリースされたSNS「Threads(スレッズ)」は、誰もが知る「Facebook」や「Instagram」を生み出したMeta社の新たなSNSとして誕生しました。昨年イーロン・マスクが買収して以来、仕様や名称が変わるなど何かと世の中を騒がせている「X(エックス・旧Twitter)」に代わるSNSになるのではないかという期待も高まり、Threadsはリリースから5日間でユーザーが1億人を突破するなど多くの注目が集まりました。
Threadsのほかにも、日本にはまだ浸透していませんが、アメリカの若者に人気の画像・動画投稿SNS「Snapchat」、Twitter社の元CEOが立ち上げた招待制SNS「Bluesky」など、今後も新しいSNS、これから着目されそうなSNSはいろいろ出てきそうです。
企業のSNS運用チームにとって、「既存で運用しているSNSに加え、こうした新参SNSにも手を広げていくべきかどうか」は、悩みのひとつなのではないでしょうか?
結論からお伝えすると、Threadsをはじめとした新たなSNSにおける企業アカウントの本格運用は、まだ「様子見」のフェーズでよいと私は思っています。
そう考える3つの理由を、Threadsを例にお伝えしていきたいと思います。
理由1: 人気が継続するかは不透明だから
リリース直後、爆発的にユーザーが増えたことで話題となったThreadsですが、実は最近は逆の流れが起き始めています。アメリカのメディアでは「リリースから1カ月ほどでアクティブユーザー(特定期間に1回以上利用したユーザー)は8割以上減少し、毎日アプリにアクセスするのは800万人ほど」といったニュースが報じられているほどです。
ローンチ当初はたくさんの人が話題に乗って登録はしたものの、その多くは利用を維持できず離脱してしまっている状態なのです。
期待値が大き過ぎたのか、実際に使ってみて不便なことがあったのか、明確な理由はわかりませんが、このように「華々しいデビューを飾っても先行きが見えない」ことは、SNSに限らず新しく世に出てくるサービスにはつきものといえるでしょう。
現に2021年にリリースされて世界中で一大ブームとなった音声SNS「Clubhouse(クラブハウス)」は、まだアプリとして存続はしていますが、今ではその名前をめっきり目に、耳にしなくなったと感じます。
そうとはいえ、Threadsなど新しいSNSが必ず衰退の道を辿るというわけではありません。この先、徐々にユーザーが増加・定着してきて、人気が持続する可能性は十分にあります。
しかし企業アカウントは、運用し続けることで人件費などコストもかかり続けるわけです。余裕があれば「人気が出るかわからないけど、やってみるか」といった選択もできるかもしれませんが、多くの企業は「できれば早めに運用を軌道に乗せて、良い効果を出したい」と思うのが本音だと思います。
理由2: まだ機能が不完全なケースがあるから
短文投稿型のThreadsは、X(旧Twitter)と非常に類似したSNSといわれています。しかも140文字の縛りがあるXに比べて、Threadsは500文字まで投稿可能。画像もXの4枚に比べて10枚までと2倍以上の投稿ができます。また、タイムラインに広告が表示されないなど、X(旧Twitter)より使いやすい一面もあります。
しかし、
- ハッシュタグ機能がない
- DM機能がない
- 検索はユーザー名のみ可能
- ログインはスマホのみでPCは不可
など、機能としてはまだ何となく物足りない部分が多々あります。今は試行段階なのか、とにかくリリースを優先にしたために不十分なのか、中途半端な状態ともいえます。
そうは言ってもこれまでメジャーなSNSを生み出してきたMeta社ですから、この辺りはユーザーの動きや使い勝手を考慮して今後改善されていくでしょう。
実際、Threadsの開発者のインタビュー記事などを見ていると、「今後徐々に新たな機能を実装していく」といった話もされています。実際にリリースしてから最初に行われたアップデートでは、リリース当初は実装されていなかった翻訳機能など新機能が追加されました。
ただし、 Xのように誰もが使いやすいほどに機能が充実するまでは、運用にあたって使い方をいちいち調べなければいけなかったり、作業に非常に時間がかかったり、ユーザーに多少の不便や手間がかかることは確実といえるでしょう。
それならば本格的な運用は、スムーズに運用するための機能がひと通り実装されてからでもよいのではないか、というのが私の考えです。
理由3:かける工数に対する効果はまだ望めないから
前述したようにThreadsは機能がまだ発展途上な上、多くの人が操作に慣れていません。そのため、運用にかかる工数が余計にかかってしまうのが現状です。
するとコストがかさみますし、さらにSNS運用において非常に重要な「継続」も危ぶまれます。
ただでさえ、定期的に投稿内容を考え、ユーザーとこまめにコミュニケーションを取りながら、フォロワーを増やすといったSNS運用の一連の流れは、手間と根気が必要な仕事です。「負担が重く途中で挫折してしまった……」「気づいたら何もつぶやかない放置アカウントになっている」といった声もよく聞かれます。
そこへ「使い方がよくわからない」「いちいち調べなきゃ投稿できない」といった負担が加わると、余計に続けにくくなる可能性があります。
さらに決定的なのは、新しいSNSの場合、それだけ力をかけても効果が得られるかどうかは未知数であることです。ユーザーがあまりにも増えないと、SNS自体がフェードアウトしてしまう可能性もあり、それまでしてきた努力が水の泡になってしまうことも。
そのため、まずはある程度のユーザー数がいて、「こうすればフォロワーが増える可能性が高い」といった事例、運用ノウハウが豊富なSNSに本腰を入れる方が現実的といえるでしょう。
ほかにもThreadsに限っては、「Instagramのアカウント情報から派生して登録するSNS」という特徴があります。つまり、Instagramアカウントありきで始めることができるSNSなので、一度始めてしまうとどちらか一方だけのSNSを解除することはできません。Threadsを解除するなら、Instagramアカウントごと削除しなければならないというリスクがあります。運用を始める際は十分注意しましょう。
ただ、現在Instagramですでに多くのフォロワーがいる企業アカウントは、新たなSNSの中でもThreadsには注目しておいて損はないと思います。
例えば、Meta社は7月にInstagramやFacebookの認証バッジが買えるサブスク「Meta認証」の日本リリースを発表しました。
Instagramで認証バッジを取得すると、InstagramのアカウントではじめたThreadsも認証となり、お得だと言えます。
認証バッジ取得には個人の場合、無料と有料がありますが、無料での認証はかなり厳しい印象があります。有料であっても、審査は厳しく、例えば免許証などの身分証明書類に不備があり、落ちた方もいらっしゃいます。ただし、審査が厳しい分通過すれば、表示されやすくなるというメリットもあります。
一方、法人のMeta認証は実は運用実績をもとにした無料申請のみしか受け付けていません。認証条件の公表はされていないのですが、有名企業や大学でも落ちているなど、審査はなかなかに厳しいようです。
Xにも同じような「X Blue」というサービスがありますが、 X Blueは月額1000円程度の支払いをすれば誰でも認証バッチがもらえるのに対し、Meta認証の月額は1600円前後で、認証には審査があります。Instagramである程度の影響力があるアカウントであれば、その審査も通りやすいと考えられます。せっかく新たに挑戦するのなら、こうしたメリットが享受できるSNSを選んで始めるというのも一案でしょう。
まとめ
私が、新参SNSはまだ「様子見」のフェーズでよいのではないかと考える理由を3つお伝えしました。
新しいものにすぐ飛びつきたくなってしまう気持ちはよくわかります。特に、現在運用中のSNSで思うように結果が出ていないときは、「新天地なら何か思ってもみないバズを起こせるかも」「フォロワーが爆発的に増えるかも!?」と期待しがちです。
しかしお伝えしたように新しいSNS、ことThreadsに関しては、本格的に乗り出すのは慎重に、もう少し時間を置いてからがおすすめです。
まずは、現在運用している既存のメジャーなSNSに注力してフォロワー、ファンを増やすことに集中する。もし、うまくいっていないのなら運用で何がいけないのか、どうすればファンを増やせるのかを徹底的に考えて地道に伸ばしていくことが大切であり、結果として効率的だと思います。
ただし、企業アカウントで本格運用する前に、個人アカウントを作って使い勝手やユーザーの傾向などをリサーチしておくのはとても有意義だと思います。既存SNSを運用しながら、余力があればコツコツと新たなSNSも研究する、このスタンスで進めていきましょう。
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