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「プロダクトでプロダクトを売る」PLG組織・人材の要件とは?SaaSプロダクトの売上900%増を実現したベーシックCSO・佐々木氏に聞く

ベーシック・佐々木陽氏プロフィール写真

 SaaS事業の新たな戦略として、その収益性の高さからも注目を集めるPLG(Product- Led Growth、商品主導の戦略)。SlackやZoomなど、PLGでプロダクトを展開する企業の中には急成長を遂げた会社も多い。PLG型のSaaSプロダクト「formrun」を展開する株式会社ベーシックの佐々木氏に、PLGの成立要件や組織構造、そこで働く人に求められるスキルなどについて取材した。

組織構造から異なるPLG 

—— formrunの事業内容についてお教えください。

佐々木:formrunはノーコードで簡単にフォームが作成でき、入ってきた問い合わせに対してチームで顧客管理できるというプロダクトです。ウェブサイトに問い合わせフォームを設置する会社すべてが対象となるホリゾンタルなプロダクトなので、業種を問わず多くの企業に導入いただいております。現在は20万以上のアカウントがあり、直近では月間7000~8000ほどのペースで利用者が増え続けています。

ベーシック・佐々木陽氏プロフィール写真

執行役員 CSO PLG事業部長 佐々木 陽(ささき あきら)氏
株式会社東急エージェンシー、株式会社リクルート、株式会社Kaizen Platformを経て、2015年株式会社Oneteamを創業。2019年に職場のコミュニケーションツール「Oneteam」事業を株式会社リンクアンドモチベーションへ譲渡。同年、それまでの経験を活かしSaaS企業発展のためのSaaS専門事業コンサルティング会社である株式会社deflagを創業し、代表取締役社長に就任。2020年にベーシック執行役員 CSOに就任し、PLG事業を管掌。

—— formrunはPLG型のプロダクトと伺っていますが、そもそもPLGとはどういったものなのでしょうか。

佐々木:TAM(市場規模)が大きいこと、価格が安いこと、プロダクトがシンプルであることの3点がPLGの成立要件です。ZoomやSlackが代表的な例として挙げられるのですが、formrunもこの成立要件に当てはまっており、私が着任以降PLG型のプロダクトとしてより一層磨きをかけていきました。日本のSaaS企業のほとんどが当てはまるSLG(Sales- Led Growth、セールス主導の戦略)型の会社とは、組織の在り方から違ってくるのも特徴ですね。

formrunのチームにはセールスやインサイドセールス、対面のサポートチームがいないんです。ということは、「プロダクトがプロダクトを売ってくれる状態」にしなければなりません。なので「フリーミアム」と呼ばれる、多くのお客様の課題を無料でも解決しながら、有料だともっと多くの課題を解決できるプロダクトを作っていくことが最も重要になります。

無料でも価値を感じてもらい、いかに多くのユーザーを集められるか、そしていかに有料に転換してもらえるかということが重要なので、プロダクトを進化させるための道筋を明確にしていくことをformrunでも大切にしています。

プロダクト開発では「北極星」という言い方をしますが、プロダクト進化の道筋を明確にする上で、formrunでも北極星をきちんと定めた上でコンセプト設計やカスタマージャーニーマップ、UXフローなどを1個1個丁寧に作っています。それらを愚直にやってきたことが、成長率900%という数字につながった1つの要因だと思っています。

また先ほどの体制を踏まえ、日々ユーザーとリアルで会う形の事業ではない分、きちんとトラッキングデータを管理して仮説を作り、仮説に基づいて打ち出した手段の効果をまたデータで答え合わせをするという、データマネジメントが非常に重要になるビジネスです。

シンプルさを徹底したプロダクト開発

—— プロダクトの開発においては、どのようなところに気を使われているのでしょうか。

佐々木:プロダクトを進化させる中で「複雑性を排除する」ことと、「人を介在させないこと」には非常に神経を尖らせています。人がいないと説明できなかったり、そもそも説明を聞かなければ使えないような機能は、PLGの場合は持つべきでないと考えています。ユーザーが使いたい時に使い始められて、人の説明が一切不要なぐらいシンプルで使いやすいことが大切です。

無料登録いただいているユーザーは、formrunのロゴやドメインが常に表示されている状態でご利用いただいているので、このフォームはformrunで作られたとわかります。利用者がさまざまなフォームでformrunを目にすることで、自分がフォームを作るときにも使ってみようと思わせることがとても大事です。そうした認知を経て実際にformrunを触ってみたときに、たった30秒でフォームが作れてしまうという体験を提供できるか、ということに非常にこだわっています。

例えばSaaSに限らずどの企業も、製品についての改善活動を行いますよね。でもその結果、複雑性が複雑性を生んでいくことは往々にしてあると思っています。ルールや法律と一緒で、プロダクトでも一度作ったらなかなか消せないものは多いです。それを意識的・定期的に見直して「やめることを決める」ということは、シンプルさを追求するPLGにおいては特に重要なポイントになります。

また企業側の都合をなるべく排除した、あくまでユーザビリティが前提の組織作りや企業風土の醸成にも気を付けています。プロダクトそのものももちろんですが、その実現のためにも組織構造からユーザーに寄り添えるものにしていく必要があると考えています。

—— SLG型の組織との構造的な違いについて、詳しくお聞かせください。

佐々木:SLG型の組織はマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールスカスタマーサクセス(CS)といった部署の分業によって成果を出すというモデルですが、PLGは組織の中核にプロダクトがあることが大きな違いですね。このプロダクトと開発・デザインの3つの組織が中心となるので、そもそもSLGとは組織構造が全く異なります。全ての仕事がプロジェクト単位で行われるのが特徴です。

PLG型組織の組織図イメージ

SLG型の組織ではユーザーの声を聞くのはCS、新規ユーザーを集めることはマーケティングといった形で行うのですが、ベーシックの場合は「ユーザーエクスペリエンス部」という形でマーケティングとCSを同じ部署に統一しました。

SLG型組織の組織図イメージ

formrunユーザーはフリーミアムからスタートして、実際に使ってみていいと思ったら有料化を体験するという流れになるので、ユーザー側がさらに多くの機能を使ってみたいと思ったら、3種類用意している有料プランの中からより上位のものへアップグレードをしてくださるわけです。この一連の体験は統一されている必要があり、分断は許されません。

こうしたユーザーの流れも含めてデータは全てトラッキングしているので、データから仮説を立てて手を打つことがより重要になります。このサイクルに、先ほど触れたプロジェクト自体を連関させていかないと成立しないモデルだと言えますね。

多岐にわたるスキルの1つ1つが専門レベル

—— SLG型の組織では、部署ごとに役割がはっきり決まっているぶん連携が取りにくいように思うのですが、PLGの組織構造だと連携が取れるぶん仕事が円滑に進むように思います。

佐々木:それが、逆に進まないことが一般的には多いんですよ(笑)。SLGのように分業なら職域が決まっている分「あなたは明日からこれをやってください」と言うのは簡単なのですが、PLGはプロダクトが中核にあるため、ベースとして各メンバーに相当なコミュニケーション能力とプロジェクト推進能力が必須になるからです。共同プロジェクトをマネジメントするスキルはもちろん、細かい合意形成をタイムリーに取りに行く姿勢もものすごく大事です。会議も進捗や数値関係など、かなり細かく行っていますね。

しかも我々はダイレクトにユーザーと毎日触れ合う組織ではないので、データからしか仮説が生まれません。この「データから仮説を作る」という能力も必要です。当社では「KPT」(今後も継続すべき点と改善すべき点を振り返り、今後の施策を考えるフレームワーク)をとても大事にしているので、結果としてキープすることや次のトライポイントは何なのかを明確にすることも徹底しています。

仮説が間違っていることも往々にしてあるので、施策が先行でも問題ありません。「実行こそ全て」という企業風土をいかに作っていくかが、PLG型組織の経営陣に求められることですね。

—— PLG型組織で働く人材には、非常に多くの能力が必要とされるのですね。

佐々木:さまざまな経験を持つプロフェッショナル同士が仕事をするので、「協働」という文化が生まれるわけです。そのため、マネージャーや部長クラスは専門的な能力を複数持っていることが絶対条件です。

プロダクト担当として採用した人材もまずはサポート組織に配置して、サポート組織からユーザーの課題などを聞きながら、プロダクトの仕様理解を進めるという形をとることが多いです。ユーザーからいただいたアドバイスをきちんと定量解析して課題設定ができれば、要件定義のステップに進めるといった教育プランを持っています。ここのレベル感のようなところも8段階で管理しており、8段階目ぐらいまで到達すると他のチームに配置転換していくことをやり続けていますね。

若手のうちはチャレンジを繰り返しながら、コミュニケーションスキルとプロジェクトマネジメントスキルをどんどん学んでもらいますし、マネージャー以降になるとよりその傾向が強まります。課題設定をし、仮説を立て、自分で仕事を生み出す能力、いわゆる「ミッションを作れる人」になれるかが重要になってきます。

PLGプロダクトは「継続利用」が必須

—— ポジションを問わずマルチタスクを抱えて動ける方が多いのでしょうか。

佐々木:割合としては多いですが、必ずしも全メンバーがマルチタスクで動いているわけではありません。ビジネスを行う上で戦略・作戦・戦術・兵站とある中で、PLGの場合は戦略が1個増えると戦術は15倍ぐらいになるのですが、この戦略をいかにシンプルにするかが事業責任者としての私の仕事でもあります。その下の部長やマネージャーの仕事は主に作戦と戦術に該当しますので、こと管理職については、基本的には常に複数のタスクを持っていますね。

マルチタスクの処理も非常に重要なのですが、メンバーに対して特に求めるのはとにかくスピードです。今は大小合わせて250個ぐらいのプロジェクトが随時動いているのですが、高速でプロジェクトが動くので、仕事が早いことは必須のスキルです。

—— PLG型組織のマーケターには、どういった資質が必要とされるのでしょうか。

佐々木:PLGではユーザーを集めて終わりではなく製品・サービスを使い続けてもらうことが必要なので、開発・デザイン・プロダクト以外はある意味全員がマーケターであるべきです。すぐ解約するユーザーを大量に集めてしまうとLTV(ライフタイムバリュー。顧客から生涯にわたって得られる利益)としては下がってしまいます。

使用用途や活用方法、利用頻度はもちろん、どういうユーザーがプロダクトを長く使ってくれるのかを理解したうえで、LTVを向上させるための設計や集客活動をしていくことが、非常に大事です。

そのうえで、ユーザーから集まった声をプロダクトという形あるものに変えていくスキルが、次のステップには必要になります。それを実行するためには、データから仮説を作るという基礎的な力が重要ですし、先ほども触れた「協働力」が大事になります。そのためSLG以上に連携が求められる組織にはならざるを得ないですね。

SLGとPLGは「脳の使い方が違う」

—— SLGとPLGでは求められる人材や組織の根本から異なるように思いますが、今後PLG型の組織は増えていくのでしょうか。

佐々木:そもそも組織がPLGになるのかSLGになるのかは、プロダクトでどういった課題を解決するかによって異なります。シンプルな課題を解決する場合はプロダクトもシンプルなのですが、大きな課題を解決するとなるとプロダクトも複雑になってきます。シンプルかつ低単価なプロダクトで、多くの人に使ってもらいたいという思いを持つ会社が増えれば、それにしたがってPLG型組織の企業も増えてくるでしょう。

—— SLG型組織からPLG型組織への転換は可能なのでしょうか。

佐々木:私はベーシックにジョインする前からSaaSの伴走会社を経営していて、上場企業も含めて4年間で60社ほどを見てきたのですが、この質問は非常によく聞かれます。残念ながら、現在SLGの企業が、明日からPLG化しようとしても成功する可能性はほぼないと考えています。

今回ご説明してきたように、そもそもの組織構造やKPIが違うのはもちろん、顧客の課題を解決する際に必要な「プロダクトがシンプルであること」という要件を満たせないことがほとんどです。

日本のSaaS企業ではこれまでSLGがずっと主流であり続けているため、どうしてもSLGの構造自体が頭に入っている方が多いです。単価を上げて機能をどんどんつけて、さらに単価を上げて…という従来のやり方から離れられず、それまでの癖で「こういう風にできない?」と、我慢できずに口を出してしまう人も多いのではないかと感じています。しかし、PLG型組織においてはプロダクトがシンプルである必要があるからこそ、そのような発言は絶対にNGです。

SLGの組織で経験を積んでいると、とにかくセールスをかけて売りたくなってしまうため「そこから脱しなきゃいけない」ということを分かっていてもやってしまうんです。さらにプロダクト・開発・デザインの三位一体を経営陣が大事にできるかも重要になってくるなど、SLGとPLGでは経営における脳の使い方が違ってくるので、転換しても円滑な会社経営ができない場合が多いんですよね。

SaaS・PLGを行うなら指標の理解は不可欠

—— とはいえSLG型の組織も、PLG型の組織から学ぶことは多いように思います。

佐々木:少しでも人を介在させずにお客様からの問い合わせを減らすとか、商品購入から導入までの時間をテクノロジーの力などを使って短縮するといった、テックタッチと言われる施策はSLGでもできると思います。またPLG化したいという経営者の話を聞いてみると、単純にハイタッチ(顧客との1対1で行うサポート)やロータッチ(1対複数で行うサポート)から、テックタッチへ企画軸を移行したいというだけの話だったりすることも多いですね。

ただし、それも裏側でデータを見ながら細かいABテストを繰り返して改善させていくことが必要です。データへの投資はもちろん、くみ上げたデータをきちんと計測しながらPDCAサイクルやKPTを回すことで、経営課題を解決できるケースもあります。

—— 最後に、これからPLGに挑戦する企業への提言をお願いします。

佐々木:これはPLGに限らずSaaS業界全体に言える話なのですが、マーケティングにいくら投資したらいいとか、プロダクトはどのぐらいの人数・どういった体制でやるべきなのか、カスタマーサクセスチームはARPU(ユーザー1人当たりの売上金額を表す指標)をどれだけ上げるべきなのか、といった知識が不足していながら施策を進めている企業がまだまだ多い印象があります。経営においてBSやPL、キャッシュフローを見るのと同じように、SaaS事業を行うのであれば各SaaSの指標の意味と重要性は確実に覚えておかなければなりません。今回お話したように、データが中心であるPLG事業はなおさらです。

世界には何万社というSaaS企業があり、上場した会社も何百社とある中で、そのようなSaaSの指標に加え、彼らがどういう軌跡で成長してきたかのモニタリングも大切です。PLGを事業とする上でも海外で既に成功している先人から学び、しっかりと知識をつけることは前提として必要不可欠だと考えていますし、私自身も心掛けていることです。

海外で既に多くの成功企業が出ているPLGも、日本ではまさにこれからです。formrun自身は日本発で世界に通用するPLGとなることを本気で目指していますし、formrunと同じようにPLGの事業を手掛けている皆様と共に日本のPLGを盛り上げていきたいと思っています!

編集後記

ベーシックという企業について「年齢や性別にとらわれず、若手がのびのび仕事をしている組織」と語る佐々木氏。多くのスキルが必要なPLG型の組織だけに、求められる能力も非常に高いものの「新しい打席をどれだけ優秀な若手に用意してあげられるかが醍醐味だし、組織がどれだけ伸びるかはそこにかかっている」と、チャレンジングな企業風土の醸成にも力を入れている。こうした挑戦を恐れない環境づくりも、SLG型の組織が見習うべきポイントではないだろうか。

取材・構成:MARKETIMES編集部・中島 佑馬