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25年目に得たブランドパーパスへの気づきとブランド確立のための戦略とは【CMO Japan Summit 2023 – ダイキン工業株式会社 講演】

 ブランディング企業インターブランドジャパンの「Best Japan Brands 2023」にて、他の名だたる空調機メーカーを抑えて総合20位入りを果たし、世界から高評価を得るダイキン工業株式会社。

 コーポレートスローガン「空気で答えを出す会社」を掲げ、空気という存在に着目したブランディングを行ってきた。ブランドパーパス(存在意義)は会社の存在基盤であるが、果たして「ブランディング」というものが何たるかという確証が得られずに長年の月日を費やした片山義丈氏。勤続25年目にして「ブランドは妄想なのではないか?」という極意にたどり着いた。

 今回は片山氏が25年の実務経験により培った経験をもとに得られたブランディングの真髄を伺っていく。

企業におけるブランドパーパスとは?

 ブランドパーパス、という言葉を耳にしたことがあるだろうか。ブランディングに携わる立場だと自然と耳にする言葉だろうが、抽象的な部分も大きいと感じるマーケターも少なくないはずだ。

 「この講演のタイトルは『時代が変わっても揺るがないブランドパーパスを軸にした顧客との関係構築』です。ダイキンは『空気で答えを出す会社』としてブランドパーパスを確立してきました。ところで時代が変わっても揺るがないブランドパーパスとはどのような意味なのでしょう?現代社会では、生活者の価値観も多様化して商品の機能の差別化が難しくなってきていますよね。このような状況下だからこそ、ブランドパーパスという曖昧な言葉は先行しがちな
のではないでしょうか。」と片山氏は話す。

 「そもそもブランドパーパスって何か説明できますか?流行している言葉で、よく耳にするかと思います。言葉の響きがすごくいいですよね。でも、まずブランドパーパスを考えるためには、ブランドとは何ですかというところからお話しさせていただければなと思っています。」

 片山氏が『空気で答えを出す会社』というブランドを確立させたオーナーとして、マーケティングを駆使して部門を成功に導く方法を伺っていく。

25年目に得た気づき

 片山氏は、「ブランドパーパス」という言葉はバズワード、いわゆる流行語のような側面が強いという認識があるという。この言葉はあまり使わない方がいいのでは?と考えていたようだ。

 「まずはダイキン工業会社での話をさせてください。ここから全ての話に繋がってまいります。もともと、私はアナログの広告とか新聞広告、テレビコマーシャルをやらせていただいていました。その後広報を担当し、ウェブサイトを担当し、現在ではトリプルメディアによるブランドづくりを担当しています。

 もともと、私はアナログの広告とか新聞広告、テレビコマーシャルをやらせていただいていました。その流れでウェブサイトをやりながらデジタル広告などにも携わっていたんです。

 実際は広告回りの方を担当させていただいたような形になっていますね。

 ダイキン工業会社は『ダイキン工業』という企業のブランドと、『うるるとさらら』というブランドがあります。『うるるとさらら』の立ち上げと、いわゆるゆるキャラの走りと言われるピジョン君の企画に参画しました。

 37年間ダイキン工業会社に勤めていて、一貫してコミュニケーションでブランドを作る仕事っていうのをやらせてもらっているんですが、やり始めてから25年ぐらいは全然うまくいかず、何をやっているのかよくわかってもらえない状況でした。」

 また、時を経るごとに価値観が多様化し、差別化が難しくなってきていることを実感していた。加えて、比例するようにブランドパーパスへの注目が高まっていることも感じていた片山氏。

 「まず、単刀直入に言ってしまうと日本の企業というのはブランドと相性が良くないなと思います。それはなぜか?日本が今ここまで成長したのは、高度経済成長期によるものです。『いいものを安く作る』ということに対して強く、『いいもの』を作ってここまで評価されて来ました。そうなってくると、いいものを作る、たとえば機能性の高いものを作るということに関しては言わずもがな得意なんです。ただそれ以外のところになかなか注目できない。

 いいものを作れたから大丈夫、ブランドとかは関係ない、となりやすくなってしまうんです。これが全ての会社がそうかというとそうではないかと思うのですが。

 でも機能的な価値、たとえば技術も成熟しクオリティも高まっていく中では、なかなか他社製品との差別化がはかりにくい。ものすごく頑張っていたとしてもです。」

 世の中のすべての人が、『これらの商品は全然違うよね』とは思いにくい。『これだ!』ということにはなりにくいうえに気づきにくい。そうなってくると、「なんとなくで決めよう」という感覚で選ばざるを得なくなってくるということだ。そこに、「ブランドパーパス」のヒントが隠されている。

言葉で説明できる価値以外の部分への注目

 おそらく、購買者層は『言葉で説明できる価値っていうのはもう十分』というところまで来ているのだろう。理屈では説明できない情緒的な価値というものが非常に重要になってきている、片山氏はそう捉えた。

 「ただ間違えてはいけないのはやっぱりいい商品やいいサービスじゃないと売れません。売れませんし、ブランドは作れません。イメージだけで売ろうとしても、1回では売れるかもしれないですけれども売れ続けるということは非常に難しいと思います。だから両方大事なんです。」

 企業価値の中で企業的な価値も含まれつつ情緒的な価値が生まれていく。そんな中でブランドパーパスがどうも大事なのではないか?という気づきが世間で生まれ始めた。それが、ブランドパーパスという言葉が広まりはじめたきっかけにもなったのだろう。

言葉で説明できる価値以外の部分への注目

 「たとえばブランディングを行う際には重要な経営戦略だったり、パーパスを作りましょうとかスローガンを作りましょうとかなったりしますよね。この商品に足りないのはブランド力だ、じゃあそうですねってなった時に何をするか?ブランドスローガンを作って売るための広告じゃなくてかっこいい広告を作りましょうとか。私はこういうのはやってはいけないと思っています。」

 ブランド作りの基盤が曖昧なままに取り組んでしまうと、それは優良な結果を生み出すことにはつながらない。結果としてブランドパーパスやブランド広告を『作る』ということが最終的なゴールになってしまっていると、ブランド作りにはたどりつけない。片山氏は続けた。

 「ブランド作りの正しい目的は何ですか?というと、一言で言うとお金を儲けるためです。

 言い方を変えると、企業の企業活動に貢献するということです。企業活動に貢献するということは、短期的に儲けるいうだけなくて、『エアコンを買ってもらいます』『エアコンを買い続けてもらう』『ほかの企業がダイキンと協業したいと思ってくれる』とかです。『優秀な学生さんが入って来られる』ということももちろん結局儲かることなんですよ。

 企業活動に貢献することが端的なお金を稼ぐということではなく、最終的なお金につながるという流れができるということです。お金を儲けない企業はSDGsに貢献することができない。

 企業活動に貢献することが端的なお金を稼ぐということではなく、最終的なお金につながるという流れができるということです。お金を儲けない企業はSDGsに貢献することができない。次にブランドをしっかり定義するということ。また皆さんに質問しちゃいますけど、そもそもブランドって何なんでしょうか?

 面白い話があるんです。もともとのブランドの意味って、英語で焼き印を押すという意味があるんですが、家畜の所有者が、自分の牛かよその牛かを区別するためにがっつり焼きごてをしたんですね。なので、これを踏まえて差別化するのがブランドですと書いてあるんです。だから私もブランドっていうのは差別化するものだと思っていたんですがこれが大きく違った。私はこれを牛の呪いと呼んでいます。」

 実際は差別化する必要はない。独自化するということが重要だった。

差別化しなければ、という呪い

 「だから私も25年間呪われていたんです。差別化というところから解かれようと心に決めたわけです。でもこの呪いはブランド界のスーパースターには当てはまります。Appleやスターバックスなどですね。でもこんなブランドはほかにはなかなかありませんよね。」

 片山氏は主要な大手ブランドの名前を例に出した。ブランドとは何なのか?ロゴを見たりマークを見たりした時にそのブランドが思い浮かぶことだと述べた。

 「人々が会社の名前を聞いた時やブランドロゴマークを見たときに、頭の中に思い浮かべたものがブランドなのです。私はそれを妄想と呼んでいます。」

 妄想とは、どのようなことなのだろうか。

 「ここでいい例があるんですけれど、一見梅干しに見えるのですが、梅に似たお菓子の写真があります。でもお客さんから見るとみんなこれ梅干しって言うんです。皆さんおっしゃるんですよ梅干しだと思ったって。でもお菓子、なんですよ、だからやっぱり妄想なんです。

 梅干しだと誤認してこれを見た時に酸っぱいって思ったお客さんもいらっしゃるんじゃないでしょうか。何度も言いますが甘く煮たお菓子なんです。これが塩分をたっぷり含んだ梅干しだって思っていることもあるわけですけど、今なんて塩分がたっぷり含まれた梅干しなんて売ってないんです。どちらかというと酢酸を使用した健康食品なので、これも妄想なんですね。この説明は短時間では難しいので、詳しくは私の著書「実務家ブランド論(宣伝会議)」を読ん
で、ブランドの定義をしっかり理解してください。」

 お客様の数だけ、自社に対する「妄想」があるということだろう。自分たちがどんなに確固たるブランドイメージを保持していたとしても、「お客様から見た印象」が一番客観的で的確なのかもしれない。

ダイキン工業が導き出した「ブランドパーパス」

 「生活している中で、皆さんエアコンは使えればいい、と考える方も多いはずです。しかし、コロナ禍になってはじめて部屋の中の空気が注目され、換気に関して興味関心が出るお客様が急増しました。

 コロナ禍だからといって特別な何かをするのでもなく、パーパスを変えることはしませんでした。私たちはもとより空気で人々の生活を快適に、幸せに過ごせることを目指す思想、「空気で答えを出す会社」として自分たちを認識していたからです。

 ですので、コロナ禍以前より空気に携わってきた会社として、世の中の空気の困りごとである『換気』のお悩みに向き合う情報発信を統合型のマーケティングコミュニケーションで実行しました。それが功を奏し、換気という空気の課題に答えを出した企業として認識いただけたと考えています。この取り組みは日本のPRの最高賞であるPRアワードグランプリも受賞しています。

 しっかりとしたブランドの理念と基盤があったからこそ、「ブランドパーパス」という抽象的な概念が形を帯びて実績につながった事例といえる。

 まずはブランドの主軸を決め、顧客のニーズと自分たちの理念が合致するように努めていくことにより、自然と「ブランド」というものが出来上がっていくのかもしれない。

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■開催概要

【名称】CMO Japan Summit 2023
【日程】2023年6月21日-22日(水・木)
【会場】ホテル椿山荘東京
【主催】マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッド
※次のイベントは10月11日-12日に開催します。
プログラム詳細はこちらをご覧ください。
 
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