Youtubeなどの動画メディアやSNSを使ったマーケティング施策が次々に産み出される昨今、Instagramなどを起点に活動するクリエイターに自社製品を紹介してもらい、商品やブランドの認知度を上げるクリエイターマーケティングが注目を集めている。Facebook Japan 営業部⻑・クリエイタータスクフォース責任者の相原氏に、クリエイターマーケティングの魅力や成功ポイントについて取材した。
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クリエイターと自社ブランドの相乗効果
—— 数あるプラットフォームの中で、Instagramがクリエイターとの協業に適している理由をお教えください。
相原:理由はいくつかあるのですが、まずInstagram自体がクリエイターとの親和性が高いという点が挙げられます。Instagramはファッションやライフスタイルなどさまざまなクリエイターが集まる場所で、お気に入りのクリエイターと繋がるために利用しているという利用者が全体の73%を占めています。
購入への影響度が高いというのも大きな理由の1つで、例えばInstagramで気に入った洋服を見つけたという場合、商品タグをタップしてECサイトに遷移し、シームレスに購入することもできます。ビジュアルベースのプラットフォームだからこそ自分が着たイメージを持ちやすく、購入というアクションに落とし込みやすいと考えています。
また、Instagramは広告主とクリエイター、利用者が対等な立場にいるプラットフォームです。それぞれが発信しあうことで熱量の高いコミュニケーションやメッセージの連鎖ができる場所でもあります。こうした性質がコミュニティの形成しやすさにつながり、クリエイターマーケティングとの親和性の高さに大きく貢献しているように思います。
—— ビジュアルベースによるイメージのしやすさとクリエイターの影響力、コミュニティの熱量が購入意欲を促進するのですね。
相原:最も新製品の情報を多く持っているブランド側からの情報発信も必要になるのですが、クリエイターの投稿をブランドからの発信と同じか、それ以上に参考にするという方が世代を問わず存在します。特にZ世代ではこうした傾向が顕著に表れており、購入を促進するためには、クリエイターとブランド双方から利用者へのアプローチを行う必要があるといえますね。
クリエイターと協業するにあたって、透明性が高い形でコンテンツを発信できるのもInstagramの大きな強みです。クリエイターの投稿に対して広告主から対価が発生するコンテンツを「ブランドコンテンツ」と呼び、投稿時にブランドコンテンツタグをつけることで投稿にタイアップであることを表示する仕組みがあります。
ブランドコンテンツタグを使うことで、利用者から見ると透明性が高い投稿に映るため、「#PR」のような直接的なタグをつけるよりも、オーガニックのエンゲージメント等も含めた広告効果がいいという結果も出ています。
クリエイターやコミュニティの「声」が消費行動に直結
—— そうした中で、クリエイターマーケティングの重要性をどのように捉えていらっしゃいますか。
相原:情報過多の時代である現在、ブランド側からの発信に加えて、専門家など信頼できるクリエイターのフィルターがあることで、生活者の情報の捉え方や付加価値が変わってくるという流れがあります。
消費行動においてクリエイターやコミュニティからの声も参考にするという流れはこれからも広がっていくと予測しているので、クリエイターマーケティングは企業にとってより重要なマーケティング戦略になると考えています。
その領域において専門知識がある人が、どういう人に適している商品かという解説をしてくれたり、自分が憧れている人がサービスを試した感想を投稿してくれたりすると、自分ごととしてイメージできる要素が生まれ、購入を決めるという消費行動に結びつきやすくなります。こうした形で購入を後押しできることがクリエイターマーケティングのメリットですし、今後さらに重要性が増してくる理由のひとつですね。
—— 信頼できるクリエイターからの働きかけにより使用イメージを想起させて購入につなげることが大切になるのですね。
相原:とはいえクリエイターの投稿だけだと、逆に「これはなんだろう?」というところからスタートしてしまいます。多くのクリエイターは商品ラベルに書いてある情報ではなく、自分が使ってどう感じたかというメッセージがメインなので、ブランドが伝えたいことも同時に伝えていかないと偏った情報発信になってしまいます。クリエイターマーケティングでは、ブランドとクリエイターの双方から消費者にアプローチすることが非常に重要です。
ブランド・利用者・クリエイターが三位一体になって熱量の高いコミュニティが形成される場所がInstagramであり、だからこそInstagramはクリエイターマーケティングに最適なプラットフォームであると思っています。ビジュアルベースでの投稿がベースになっているという点もそうなのですが、熱量の高いファンの思いがクリエイター経由で届きやすいというのも、他のプラットフォームとは違った特性です。
どの企業や商品にも共通する「3つの成功ポイント」
—— そうした特性を持つInstagramにおいて、クリエーターマーケティングを成功させるには何が必要になるのでしょうか。成功のポイントなどありましたらお教えください。
相原:まず、これは全てのマーケティング施策において言えることですが、ブランドビジネスの目的を明確化することが前提になるのですが、商品認知を拡大したいのか、ローワーファネルの売上を伸ばしたいのかといった目的を明確にすることが大切です。その上で、クリエイターマーケティングの場合は3つのポイントを抑えることで、どの企業のどんな商品でも有効に活用することができると思っています。
1つ目はトピックの選定です。クリエイターの世界観とブランドの世界観がマッチしているか、発信するトピックは双方が共有・強化できるものかという点です。
例えばオーガニックにこだわったシャンプーを告知してもらいたいときに、起用するクリエイターが普段からオーガニックなライフスタイルに興味を持っていなければ、ブランド側が「こうやってください」という指示に従うしかないので、クリエイターの世界観が十分に発揮されず、クリエイター自身の本音感が伝わりません。利用者はこの本音感に対してかなり敏感なので、「このシャンプーは好きじゃないんだろうな」と伝わってしまいます。こうしたミスマッチを防ぐために、互いに共有できるトピックを設定することは非常に重要です。
2つ目はクリエイターの選定です。広告主側からするとフォロワー数が多いメガクリエイターを使いたいと考えてしまいますが、最近はフォロワー数が10万人未満のマイクロクリエイターでも効果が出るというケースが多くなっています。必要なのはフォロワー数の多寡ではなく、本音感を産み出せるクリエイターかどうかといった点や、クリエイターの持つ世界観と自社商品がマッチしているかという観点です。
私自身の体験なのですが、例えば柔軟剤の場合、フォロワー数が多くないマイクロクリエイターでも、その分野で豊富な専門知識を持っている方や、自分とライフスタイルが似ている方が紹介しているのを見ると、効果に説得力を感じて購入意向が高まることがあります。また、自社アカウントをタグ付けして投稿してくれている人をリサーチして、自分のブランドを紹介してくれるクリエイターをInstagram上で探すのも効果的です。さまざまな方法で本音感を生み出せるクリエイターを発見し、コミュニティを育んでいくことが大事ですね。
3つ目は表現方法の選定です。Instagramにはフィード投稿をはじめリールやストーリーズ、Instagram ライブなどさまざまな発信手段があるのですが、こうした機能を使い分けてメッセージを発信することが重要です。
とはいえ「どういう表現方法がフォロワーに最も刺さるか」という知識はクリエイター側の方が詳しいので、必ずしもブランド側から細かいディレクションをする必要はありません。クリエイター自身のセンスで自由に表現してもらうことで、ブランド側にはなかった新たな視点からの表現を発見することもできるので、細かい制約を課さないというのは、クリエイターマーケティングを成功させるための重要なポイントになりますね。
ローワーファネルにも確かな効果
—— マーケティングの目的を明確にしたうえでプロダクトとマッチする世界観を持つクリエイターを選定し、ブランドコンテンツのタグ活用も積極的に行いながら自由に表現してもらうことが成功のポイントなのですね。実際の活用事例についてもお聞かせください。
相原:まずトリコ株式会社の活用事例になるのですが、こちらではクリエイターを起用しない既存広告のみ配信したパターンと、ブランドコンテンツタグを活用したクリエイターマーケティングと既存広告を両方配信したパターンで、新規顧客獲得効率とブランド指標の伸びを測定したABテストを約2週間行ないました。
結果としては後者のCVが2.1倍に向上し、CPAは44%改善、CPMは28%削減という結果になりました。ブランド指標の検証結果においても、広告想起は約1.5倍に向上し、ブランドリフト単価(想起にかかった単価)も44%減となっています。中でも利用意向が1.7倍になっているのが大きなポイントで、なかなか上がりにくいとされているローワーファネルにおいても大きな成果を出すことができました。
他にもさまざまな成功事例があるのですが、いずれもクリエイターを活用した広告とブランド広告を併用することで、ローワーファネルまで影響する高い広告効果を発揮して売上に貢献しています。
—— クリエイターマーケティングを活用することで、かなりの効果を期待できそうです。
相原:はい。ただ、このようにお話するとクリエイターマーケティングのみ行なえばいいように思われることもあるのですが、大切なのはあくまでも「ブランドとクリエイターの相乗効果」で、ブランドからの発信や広告配信もしっかりやるべきだと考えています。また、クリエイターに商品やブランドへの愛をもって発信してもらうためには、ブランドがクリエイターと中長期的な協力関係を築くことが重要です。
例えば、アンバサダープログラムのような形でより深くコミュニケーションをとったり、商品開発の際にクリエイターの意見を取り入れたりといった関係性を構築することで、クリエイターに商品への思い入れを強めてもらうことも有効だと思います。目先の数字にこだわらず、長期的な視野から考えた施策でクリエイターや消費者にアプローチしていくのが理想的です。
—— クリエイターの声を聞いて商品に反映させるといった深い関係性を築くには、組織の柔軟性も必要になるように思います。一方で、現場レベルでは意欲があっても上層部が乗り気ではないという企業もあるかと思いますが、こうした企業には何が必要なのでしょうか。
相原:企業上層部の方はInstagramを使ったことがないという方もいらっしゃるかもしれませんが、まずはInstagramを試してみることからスタートするべきだと思います。自社製品のに関するコンテンツに自分で触れて、その商品がどう見られているか、どんなコミュニティがあるのかを実感することで、施策への理解度が増すのではないでしょうか。役員レベルの方や事業責任者がそのような新しい挑戦をできるかどうかは非常に大きいですね。
ただ担当者からの報告を待つだけではなく「自ら行動する」ことは、日々変化が多いデジタル、特にSNSプラットフォームを活用するという意味で、次世代を担うマーケターにとってはマストなスキルだと思います。
「誰が言っているか」が重要になるクリエイターマーケティング
—— クリエイターマーケティングは今後どのように発展していくのでしょうか。
相原:情報過多、かつ多くのチャネルから情報を得る社会では、どのように自分に関連度の高い情報を取捨選択するかが大切だと言えます。マーケティングにおいても「誰が言っているのか」という点がさらに重要になりますし、クリエイターをはじめとする信頼できる人や媒体によるフィルターも必要になってくると考えています。
—— 誰が言っているのかを明確にすることは投稿の権威性や属人性にも関わってくると思うのですが、動画メディアにおけるコンテンツマーケティングにおいては、情報の発信源を明示できる「顔出し」が重要になるとも言われています。クリエイターマーケティングでも同じことが言えるのでしょうか。
相原:クリエイターについては「顔出し」はマストではないと言えます。たとえばファッション系のアカウントでは、コーディネートを見せて顔は出さないクリエイターでも「この人のセンスを買いたい」というファンが集まるケースはありますし、イラストレーターや手芸などの領域でも顔を出さずに世界観を構築している方は非常に多くいらっしゃいます。
Instagramのリール機能を活用する場合はクリエイターの顔が入っている方がエンゲージメントが高い傾向にありますが、そうした一部の例外を除けば基本的に顔出しは必須ではありません。ライブ配信なども顔を出さずに行なえますし、属人性という意味では、そのクリエイターが持つ世界観のほうが重要ですね。
—— 最後に、これからクリエイターマーケティングを行ないたいという企業に向けてメッセージをお願いします。
相原:Instagramは「女性の利用者が多い」というイメージが強いかもしれませんが、実際は男性の利用者も多く、男性のクリエイターも増えています。老若男女問わず愛されるプラットフォームになってきているので、Instagramでのクリエイターマーケティングはどんな世代の方にもマッチします。まずはInstagramを使っていただいて、自社のビジネス目標を達成する方法としてクリエイターマーケティングにも気軽に挑戦していただけると嬉しいです。
Instagramは、写真や動画を投稿して繋がるビジュアルコミュニケーションのプラットフォームです。現在、全世界で20億、日本で3300万を超えるアカウントが利用しており、コミュニティ(利用者)が写真や動画をシェアすることで、家族や友だちとの距離を縮めたり、自分の趣味・関心、お気に入りのビジネスとの繋がりを深めたりする場を提供しています。ビジネス向けにはクリエイターマーケティングのプラットフォームとしてだけでなく、商品の発見から購入までをシームレスにサポートするショップ機能、レストランや美容サロンの予約ができる機能などを提供しています。ビジネス活用に関する最新情報や事例などは公式サイトをご覧ください。
編集後記
ブランド側が売り込みたい商品を影響力のあるインフルエンサーに紹介してもらう「インフルエンサーマーケティング」も流行したが、「クリエイターとインフルエンサーは別物」と語る相原氏。Metaが考えるインフルエンサーは受けた指示をそのまま表現する人で、クリエイターは独自の視点でコンテンツを作ることができる人だという。クリエイターマーケティングはまずクリエイター自身の世界観があり、その世界観に合う商品を紹介してもらうという真逆の形態になる。
こうしたクリエイターについて、相原氏は「自分でコミュニティを広げられる方々が、自分の世界観にあったコンテンツを展開している」と語った。Instagramではエンドユーザーにより近く、彼らが求める本音感で商品を紹介してもらうクリエイターマーケティングを推奨しており、今後もさらなる発展に尽力する構えだ。
取材・構成:MARKETIMES編集部・中島佑馬
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