無料の資料掲載・リード獲得し放題サービスはこちら

ベビースターラーメンのリブランディング戦略 おやつカンパニーCMO、髙口氏が語る既存商品を活用した需要創出方法

おやつカンパニー

ベビースターラーメンでお馴染みの株式会社おやつカンパニー。会社の顔とも言える同製品の、「お菓子」ではなく「食材としてのお菓子」という、新たな着眼点での試みが功を奏し、リブランディングの成功例としてブランドの成長に貢献した。2022年6月開催のCMO Japan Summit 2022に登壇したマーケティング本部 取締役専務執行役員およびマーケティング本部長の髙口 裕之氏は、なぜ最も認知のある商品に改めて注目したのか、また、マーケティングを行う上で押さえるべき重要な観点を明らかにした。

「お菓子の会社」としての最初の課題

 お菓子は低価格に分類される商品であり、「新しい味」や「おもしろいコンセプト」など、人目を引く理由があると、消費者は新鮮さから購入に至ることが多くある。あまり深刻に物事を考えることもなく、商品を買ってしまう可能性があり、企業側は新商品を出すと少しは売れる傾向から、「毎日毎日新しい製品を出す事が仕事」だと考えてしまいやすい。

 日々プロダクト生産に追われることにより、スピード感を持って次々と製品を提供することにつながってくるが、なかなか1つのブランドを育成し、成長させていくことに時間を割けなかったのが実情だ。

 「当社の製品を出すスピード感は非常に迅速です。ただ、プロダクトは得意だが、ブランドという発想が非常に薄いと感じました。」と、髙口氏は話す。その実態として、会社として認知度が高いベビースターラーメンの売上が右肩下がりで推移していた。

CMOとして行った3つの目標設定

 まず一つ目は、会社の代表商品であるベビースターラーメンの売上を回復させること。看板商品に元気がないというのは社員にとってもお客様にとってもよくない。ここにテコ入れを行うことが先決すべき課題だと考えた。売上をつくって会社を成長させることももちろん重要だが、既存のブランドを復活させ成長させることによって、「ブランドバリューを上げていく」ことに向き合う必要があった。

 2つ目は、既存製品とは異なる価値の創出だ。食品マーケットというのは人口の増減の煽りをダイレクトに受ける市場であり、日本の人口が増えれば市場も活性化し、それに伴い売上も増える。しかし、人口が減ると市場は縮小していく。今まで朝食・昼食・夕食の3食だった食事が4食に増える、なんてことはありえない。そういう意味ではダウントレンドになってしまっているため、会社の次の成長軸に必要なフェーズとして、従来のお菓子ニーズとは異なる価値を生み出していかなければならなかった。

 3つ目は、主に髙口氏のミッションとなる。同氏は会社全体に「マーケティング思考を浸透させていく」ことが重要だと述べた。自身の経験上、多くの企業ではこれまでの経済成長の流れを汲み、人口も増加したことにより、新製品を出せばそれなりに売れる印象があり、売上げもついてきたような感覚があった。そうなってくるとある程度製品を出していけば売れると考えてしまう。しかし現代はそうではなく、 思いつきで製品を出した結果失敗してしまえば、プロジェクトに携わった社員の人件費を含め、労力時間などが全て無駄になってしまうことになる。もちろんやってみないとわからないこともあるかもしれないが、それなりに 「売れる道筋」は立てていく必要がある。

髙口氏が入社後に行った最初の施策

 髙口氏が入社して最初に行ったのはマーケティング環境を整えること。加えて市場調査だ。そもそも伸びやすいカテゴリーであるのか?今後業界で伸びそうなもの、売れそうなものというのが必ずあり、経営力以前にまずものの価値を見極めるセンスがポイントとなってくる。

 前述の視点から市場を見てみると、スナック菓子市場というのはお菓子全体の市場で見てもちょっとした進捗を見つけることができる。セグメントしてみると、ポテトチップスだけが伸びており、「スナック菓子で何を思い浮かべますか?」と人々に質問すると、ブランド名ではなく、「ポテトチップス」という方が圧倒的に多いことがわかる。次いで相当な差が開いて、ブランド名が出てくる状況となっている。

「ベビースターラーメン」を使った新たな需要の獲得

 そもそも業界的にBtoBtoCが主となっており、取引先がほとんど小売店となる。販路が実店舗となると全てデジタルでまかなうことは難しい。ファネルトラッキングできるデジタルに移行して行きたいという気持ちもあるが、売上げの構成比がそこまで高くなく、経営効率的にはいかに実店舗で買っていただくかというところがやはり一番の要になってくる。

 小売店は基本的に坪効率ビジネスなので、同じ1平方メートルの面積で売れるものを考えると、ベビースターは認知は高いが、スナックでのプレイヤーシェアでいえば6%程度しかない。従い、リテールの中で優先順位が高いかというとそうではない。それに加えて、お菓子とは前述の通り、お客様はフィーリングで買ってしまうところがある。そうなるといくらベビースターという名前があっても違う商品に目が行ってしまったり、新鮮味のあるものが出てきたりしてしまうとそちらを買ってしまう。つまり店頭支配に注力した方が効率がいいのでは?という結論に至ってしまうが、大きな企業との競争は難しく、ここからどうしていくか?と考えていくことがベビースターのリマーケティングのスタート地点になった。

 ベビースターラーメンをどのように打ち出していくのか。小売店に駆け込んでベビースターラーメンを売ってください、と言ったところで「分かった」なんて言ってもらえない。あの小さい袋で30円。特別感があるわけでもなく、いわゆる定番という売り場に陳列してもらい、それをお客さん自ら買いに来てもらう状態にしないといけない。

 そこで、髙口氏が最初に思いついたのは「もんじゃ焼き屋」。

 もんじゃ焼きのトッピングとして使ってもらうという発想で 社員に確認をとったところ、もんじゃ焼き屋にベビースターラーメンを卸す、という取り組みを行ったことは無いとの回答だった。食品というカテゴリーで見ても、ベビースターラーメンは料理と親和性があるのではないか?と同氏は考えた。

 そもそもベビースターラーメンを購入する年代の割合が、家族に食事を作る世代の人々が買っているというデータもあったので、おやつだけじゃなく、料理にも使える、というコンセプトで買っていただくのはどうだろうか?と仮説を立てた。競合との差別化にも有効であったため、2018年から着手を開始し、レシピ本なども発売、外食や中食とも協働。結果的に店頭回転は回復していき、売上は以前よりも増加した。

勝負するフィールドを変えてみる

 同じフィールドの中に新商品を出してしまうとカニバリを起こすため、既存の商品を変えることなく、違うものにも使える、というようにフィールドを変えていくような方向に軸足を変えた。スナック菓子としてだけではなく、新しい使い方があるというところを見せていく。従来、消費者がスナックを買おうかな?と考えてから「どれにしようか」と迷う一歩手前に分岐点を作らないといけなかったのだ。どうせ買うのだったら夕食にも使える、ベビースターを買ってみようかな、と思ってもらえることが訴求点になると判断し、クッキングのお供という側面でのプロモーションを強化していくことが最終的に成功した。

食事としてのお菓子を確立

 お菓子を嫌いな人は本来少ない。お菓子を渡すと人は喜び、笑顔になってもらえる。ただ、難点が「健康的だと思うか」と言うとそれは違うような印象があった。昨今は時代が変わり、以前は三度の食事とおやつが切り分けられていたが、現代ではおかしで食事を済ませる風潮もある。

 しかし、それは健康的にどうなのだろうか?と消費者は思っているはずなので、その疑問を解決する事ができればいいブランドができるということに髙口氏は気がついた。それがもし食事の代わりになるのだとすれば、売上につながるのではないかと。チョコレートのポリフェノールなども、20年前はそれほど言われていたわけではなかったが、最近よく謳われている。マーケットプレーヤーとして追いかけていくと、健康的なお菓子という土俵の中でいつか戦う日がくるのであれば、もっと先に行って差別化しよう、という感覚が同氏にはあった。

健康的なお菓子の実例

 健康生活習慣という部分も含め、今はタンパク質(プロテイン)が人気。昔は特殊な栄養素という印象だったものが、今やボディメイクやダイエットを行うためのものになっている。スーパーでもプロテインを販売するようになって、ものすごいスピードで市場が動いている。某大手ドラッグストアのマーケッターに状況を確認してみたところ、面白い小話も聞く事ができたという。

オリンピック毎にプロテイン市場が拡大するらしく、当時2019年だったが、2020年に東京オリンピックを控えていたこともあり、タイミングよくプロテインをコアバリューに持ってこようとプランニングを行った。最近ではネットで検索すると筋肉食堂などが出てきたり、ボディメイクや筋肉トレーニングは一部のマニアックな人たちや男性だけのものではなく、女性も健康的で綺麗に筋肉をつけているのが本当の美しさ、というイメージも出てきている。おそらくこれが続くのでは、と予想。その結果生み出された商品がBODY STARであり、着々と売上に貢献している。

根本的に必要な部分はマーケティングとしての考え方

 最後に髙口氏は以下のように述べた。

 「多少なりともであっても、やはりマーケティングの思考がないと何をやっても結果を出すことは難しい。何をしていくことが一番お客様にとって重要なのかを分析し、可視化したり文脈化したり説明が付く状況を作れるようなマーケター、社員になってほしい。ひいては組織、会社になってほしいという思いがあります。相手が人である以上、軽重あれどやはり何事も理屈がある、ということです。例えば、マーケティングは一般的にはパレートの法則に則り、8割の利益に貢献する優良顧客を重視するCRMが大切、と言われていますが、カテゴリーによってはダブルジョパティの法則が効果的に働くことも言われている。新規獲得には、通常顧客維持以上のコストがかかると言われていますが、この法則により新規に目を向けることの有効性が検証されています。」

 これは、フレームワークとはまた違うが、こんな風に対外的な説明ができないと会社自体が動かせないので、戦略性をもち、抽象化して考えていく思考が必要になってくる。仮説が立っていればどこがおかしい、何がいけなかった、と微修正していくことが可能だ。現在、同氏によってメンバーと一緒にマーケティングセクション用のルール&ガイドブックを制作中である。

 「半年ごとに更新していこうと思っているのですが、だれがいつ担当になってもある程度のパフォーマンスが出せるような仕組みを作ろうと思っています。これでマーケティングのトレーニングと人材の育成という部分で、部門、会社にとって良い制度になるような仕組みにしていけたらと思っています。」と同氏は語った。

【名称】CMO Japan Summit 2022
【日時】2022年6月21日~22日
【会場】ホテル椿山荘東京

【主催】マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミティッド