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日系大企業に新しい視点を送り込んだ外資系マーケターのキャリア形成とは【CMO Japan Summit 2023 – 小林製薬株式会社 講演】

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 昨今、ITツールやデジタルテクノロジーなどを活用し、今までにないサービスの提供や新しい顧客価値の創出に力を入れている企業も多いのではないだろうか。「DX推進」というワードは各所で耳にするようになり、大企業ではいち早く取り組みを行いはじめ、独自の成功事例を生み出している数も少なくない。

 新卒でCyber Agent(サイバーエージェント)からキャリアをスタートし、Google Japan(グーグル ジャパン)やSalesforce Japan(セールスフォース)等で最先端のデジタルマーケティングの知見を培ってきた石戸亮氏が、2023年に小林製薬にて新設されたCDOユニット長に就任した。

 フルタイムで勤務しているにもかかわらず、飲食店オーナーとしての顔も持ち、副業にも力を入れている石戸氏。そんな彼が小林製薬を選んだ理由や、自身が考えるマーケターとしてのキャリア形成について伺っていく。

人材の流れから気づいた新たなキャリア

 まず、石戸氏がキャリア形成について考えるきっかけなどはあったのだろうか。

 「私がGoogleの日本法人やSalesforce Japanで働いていたころは、Googleでは1300人を採用し、本社が六本木から渋谷にオフィスを移動した時期でした。もしかしたらデジタル大手の過渡期ともいえるタイミングだったかもしれません。Salesforce Japanも2000人を採用し、丸の内に引越ししていました。

 状況として言えば国内のスタートアップの資金調達環境がよくなり、起業家の方々も増えてきていたときだったんですね。ビック・テックやスタートアップ企業がどんどん積極的に採用を強化していました。5年ほど前から特に顕著に感じていたように思います。」

 石戸氏はSalesforce Japanに在籍中、さまざまな業種の大手企業・中小企業様へ向けてそれぞれが抱える課題の解決提案を行っていた。クライアントが口をそろえていうのは「データを活用できていない」・「デジタル人材がいない、育たない、辞めてしまう」 などの悩み。

 石戸氏は、ビック・テックやスタートアップのような企業が成長して事業主様を支援して行く中、根本的な解決策は導き出せていないのでは?と感じていた。

 「もちろんさまざまな経験をさせていただきましたが、これ以上事業支援側にいるよりも、事業会社様側でもう少し具体的な課題解決ができないかなと思っていました。」

小林社長との出会い

 そんな中、石戸氏は偶然小林製薬の社長である小林章浩氏と出会った。

 きっかけは、ファミリーマート エグゼクティブ・ディレクター チーフ・マーケティング・オフィサーの足立光氏に呼ばれていったバーに小林氏がいたという。

 「正直、最初はどこの小林さんだか分からないまま、お互いの趣味のキャンプなどの話をしていましたが、名刺交換をしてみたら小林製薬の社長で驚きました。そのときに、CDOと書かれている私の名刺を見て、小林さんが「これからDX推進していくのだけど、まだ手探りだから月に1回くらいミーティングに参加してもらうことは可能か」と打診をもらったんです。そこから少しずつ仕事で関わるようになりました。

 その後も、小林さんとは3カ月に1回くらいのペースで食事に行きましたが、どうやら小林さんにとって私は珍しい人間だったようです。私は仕事のときも基本的にパーカーにジーパンといったカジュアルな服装をしており、それが印象的だったようでした。」

 石戸氏は続けた。

 「昨今デジタル人材と言われているような人たちは服装は自由であり、こういう恰好でなければデジタル人材が採用できないし、私も自由ですね」と小林氏に伝えたところ、「そうなんですね」と納得されたようだ。

自身にフィットした変革期・戦略転換期真っただ中の小林製薬

 もともと小林製薬は薬の卸問屋として大衆薬普及の一手をになった企業。最初は化粧品や雑貨の店として創業し、伝染病の流行をきっかけに薬業界の需要に着目し、問屋として事業基盤を固め、自らも製造販売に力を入れるようになった。

 90年代には暮らしの中の「未充足」ニーズにこたえる形で商品開発を強化し、現在も残る基幹ブランドを多く創出している。同タイミングで海外展開も本格的にスタートしていった。

 「私が入社するタイミングで、2023年から2025年における新中期経営計画が発表され、私が所属する「CDOユニット」が社長直下で設立されることとなりました。ユニット内には、DX推進グループと販売・生産システム部があり、よりデジタル面での強化を図っていく体制が整ったのです。」

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 もちろんDX推進でも意図する戦略があった。

 「まず、中期経営計画のテーマにも入っているDXによる「あったらいいな」開発の刷新のために、AIなどのデジタル技術の導入を試みたり、技術を駆使した新製品開発に取り組んだりしていきます。加えて、全社員でのDX推進の一環として、デジタル教育の徹底やツールの教育も行ったり業務効率化を図ったりするために、共通基盤システムの構築も必要でした。

 当時の状況として、特に重要な検討ポイントとなったのは全社員一丸となった方針であり、ロードマップのもと同じ方向に向かって適切に連携し、知見を蓄積させることでした。これがのちに強みとなり個々では出せない厚みを持たせられると思っています。」

 小林製薬では社内制度の1つに、全社員が新製品のアイデアを考えるという取り組みを行っている。新製品開発担当以外の社員も、新製品を考えていくというのはブランドスローガンである「あったらいいな」を意識づけることに非常に効果的であり、何より社員一人一人が商品と経営理念に自然と向き合う仕組みになっているため、良い機会となっている、と石戸氏は話した。

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石戸氏が意識していたシステムシンキングとは

 システムシンキングとは、『複雑な状況の中で、視野を広げて様々な事象のつながりや背景にある構造・影響関係への理解を深めながら、より根本的・本質的な問題解決に向けたレバレッジ(手の打ちどころ)に働きかける思考のあり方』だ。言葉を例に出し、石戸氏は続けた。

 「システムシンキングに伴い、よく私が例に出すのは氷山モデル(The Iceberg Model)の考え方。

 氷山は、目に見える部分は全体のたった10%といわれており、約90%という大半の部分は見えない水面下に存在していると考えられています。氷山モデル(The Iceberg Model)の考え方とは、氷山と同様に、目に見えて起こった事象そのものだけをとらえるのではなく、それに関係する全体像を見つめて解決策を考えるアプローチ方法です。

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 私たちがこの図式に現状を当てはめていくと、表面的に見えている部分は施策・メディア・ビジョン・AI活用・アイディア・戦略・顧客体験創出・データ分析・業務改善等でした。」

 石戸氏は、水面下では、組織構造・ルール・空気や雰囲気・会社の強み・秘めた思いやなぜ働くのか?という個々の気持ち・捉われた思考・共感・傾聴・対話・配慮・敬意・感謝・無意識バイアス・多様性、などの様々な要因が潜んでいることがわかるという。

 「水面下の部分は世の中の枠組みとして考えられます。人はどこかの組織や業界に所属しており、職域があって、各個人仕事の進め方や考え方をもっています。そのうえで多種多様な文化と空気が形成されたルールの中で生きています。

 僕はこれを鎖につながれた象、と呼んでいます。自分には力があるのに長い時間をかけていると自分にはできないと思ってしまう。自分にバイアスをかけてしまっているんですね。」

 石戸氏は社員に『行きつけ』のお店を増やすことなどもアドバイスしている。『行きつけ』のお店ができてなじみ客となり、お店の方の悩みをヒアリングする。それをもって問題解決の一端を担う。そうしていくと、自然と自分のコンサルタントとしての経験値が増えていき、自分一人では得られなかった気づきや視点を得られるようになるという。

 「会社という枠を越えた活動が、自分という枠を越える手伝いをしてくれる。柔軟な思考力を身につけられるようになるんです。

 自社だけでは解決できないリソースというのは必ず存在します。このように社外で関係を築いていけば、いざ何かあった時に、チャット一本で相談できる間柄になることもあるでしょう。

 一人一人が充実していけば必ず全体に影響してきます。全体が拡張すれば事業の推進力や発展力につながっていき、会社の成長につながっていくと考えます。」

 柔軟な対応力と、人並外れたバイタリティーで新たな経験値を積んできた石戸氏。業種や職種の違いを超え、さまざまな経験を積むことが新しい見解や知見を生み出すきっかけとなるのかもしれない。