世界中で20億人を超えるアクティブユーザーを持ち、数多くのインフルエンサーが活躍するInstagram。日本では10代・20代を中心に、2019年時点で3,300万人のユーザーが登録しており、BtoC企業のコンテンツマーケティングで活用されることも多い。株式会社ハピラフCEO・富田氏に、Instagramにおけるマーケティングにおいてマーケターに求められる資質や、アルゴリズムへの対応などについて取材した。
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導線設計と機能理解で「ファン化」を促進
—— 貴社の事業内容についてお教えください。
富田:マーケティング支援・運用代行事業、メディア事業、EC事業の3領域で事業を展開しております。自社で運用しているInstagramが大体累計で300万フォロワーほど抱えているので、そのノウハウを基に企業様のマーケティングの支援をしていますね。
—— Instagramのフォロワーを伸ばし、集客や購入につなげるためには何がポイントになるのでしょうか。
富田:Instagramでは、導線設計と投稿ごとの役割を理解することが重要です。「とにかくフォロワーを増やす」ことを第一に考える方も多いのですが、自社のターゲットと関係ない層のフォロワーを増やしてしまうと、リーチ(投稿を見たユーザーの数)も増えず購入行動にもつながりません。
Instagramに限らずTikTokなどのSNSにもいえることなのですが、まだまだ短尺動画で商品購入につなげるのは難しいですね。潜在顧客・既存顧客にしっかりアプローチしていくためには、アルゴリズムごとに役割を分ける必要があると考えています。
たとえばリールはアルゴリズム的に新規の方に当たりやすいので、リール自体は新規ユーザーへのリーチ最大化を目的として商品の認知を広げていくべきです。一方でフィードは基本的に既存のフォロワーに当たるようなアルゴリズムになっているので、フォロワーの購入意欲を促進させるような投稿を意識するといいですね。
ストーリーズでは、そのアカウントやブランドのファンになってもらう、いわゆる「ファン化」を進めるためのコミュニケーションを取っていくことが望ましいです。
Instagramの習慣化が認知度向上に貢献
—— Instagramを伸ばすために必要な意識や、マーケターとしての資質や能力についてもお教えください。
富田:特別な資質は必要ないのですが、担当者自身がどれだけの時間Instagramを触っていられるかという点と、自社顧客がどのようにInstagramを使っているかという顧客理解の2つが大事ですね。Instagramになじみがないという方でも、まずは1日10分といった形で時間を決めて触っていき、それが日常になるところまで昇華できるといいかなと思っています。
自分自身で使う際にはストーリーズだけしか見ないという方もいるように思いますが、自社顧客は逆にストーリーズを見ずにリールだけ見ているという場合、当然リールを多く活用するべきです。実際に各機能を使い実感としてアルゴリズムを理解したうえで、ターゲット層に対して商品認知を最大化するためにはどうしたらいいのかを考える必要があります。
また、現場でInstagramのアカウントを担当する方と経営側で、意識のギャップが結構あるという会社も多いです。現場と経営陣の双方が同じ理解を持ってInstagramに取り組むことは非常に大切なので、たとえばInstagramを活用している20代社員からの「逆フィードバック会」を開催し、Instagramではどのようなことができるかを学ぶこともおすすめです。
—— インスタを運用する目的(認知度向上やリード獲得など)や、企業の業態・商材などによって意識する点や指標、運用方針(投稿頻度や内容など)も変わってくるのでしょうか。
富田:Instagramのアカウントはブランドアカウントとメディアアカウントという2種類の「型」に分けられると考えているのですが、この型によって変わるところがあります。たとえばブランドアカウントでは、そのブランドのブランディングやブランドの認知度向上につながる情報を投稿する、いわゆる「インスタ映え」するようなアカウントを作っていくというやり方があります。
これ自体でも一定の反応は返ってきますが、今Instagramが重要視している保存や滞在時間にはあまり効果がないので、その方法で投稿自体を伸ばすというのはなかなか難しいですね。逆に広告効果の最大化やタグ付けによるUGC(ユーザー生成コンテンツ)の増加は期待できるので、そうしたところを目的としながら認知度向上を図っていくのがいいと思います。
メディアアカウントについては、お役立ちコンテンツのようなテキストによるマガジン型のコンテンツを投稿するので、投稿自体が参考になるため保存や滞在時間も伸びる傾向があります。エンゲージメントが高まりやすいぶん、リーチ数の最大化を図るのに適した型だといえますね。
運用する部署が分かれるなら管理者が必要
—— ブランドアカウントとメディアアカウントで性質がかなり異なるように思いますが、両方のアカウントを運用しているという企業ではそれぞれ担当者を分けるべきなのでしょうか。
富田:会社の規模感などにもよって割ける人員も変わってくると思いますが、例えばブランドアカウントであれば「その商品をどういう世界観で見せていくか」が重要になります。そのコンセプトのもと撮影した商品画像を広告でも活用していくため、ブランドアカウントはマーケティングチームが運用するケースも珍しくありません。
逆にメディアアカウントでは画像を編集したり文字入れをしたりといった作業が入ってくるので、社内のデザイナーや広報に任せたり、コンテンツチームやオウンドメディアチームを立ち上げて運用するというケースもあります。
ただしInstagramマーケティングは全体で捉える必要があるので、部署が分かれていてもメディアとブランドが施策として一致していなければなりません。仮に部署が分かれるなら、それを横断して統括する管理者を登用するべきです。
—— この管理者にはどういった資質が求められるのでしょうか。
富田:Instagram全体のマーケティング戦略から逆算した上で施策を考える必要があるので、やはりマーケティング全体を俯瞰して見られる視野があり、そのうえで戦略を立てられる方をその管理者に充てるべきだと考えています。逆に言えば、管理者レベルではInstagramのアルゴリズム理解よりも、そうした視野の広さや顧客理解のほうが重要です。
良質なコンテンツを出し続けていればアカウントはおのずと伸びていくのですが、プラスアルファとして管理者にアルゴリズムの理解があると、機能ごとの役割に合わせた施策を展開する逆算の戦略化も可能です。当社でも戦略コンサルとしてのサポートが可能なので、ぜひご相談いただきたいですね。
—— 現在のInstagramのアルゴリズムにはどのような特徴があるのでしょうか。現行のアルゴリズムと相性のいい施策などもありましたらお教えください。
富田:今年の4月中旬ぐらいに大きな変化があり、初速のエンゲージメントとエンゲージメント数をかなり重要視するようになりました。機能ごとに多少の違いはありますが、投稿に反応してくれるフォロワーをどれだけ集められるかの勝負になってきたと感じています。
フォロワーを増やすという視点からいうと、投稿に対してあまりリアクションしてくれない浅いフォロワーが多いと投稿が伸びにくくなりました。単にフォロワーの多いアカウントよりも、フォロワー数自体は少なくともしっかり反応してくれる、コアなファンが多いアカウントが伸びやすくなっていますね。
またリールに関しては、最初に反応が取れるとそこからコンテンツファーストで伸びていくようなアルゴリズムになっているので、短尺動画に関してはTikTokに近いアルゴリズムになっていると思っています。機能を問わず、投稿を通じてフォロワーと濃いコミュニケーションを取り、シグナルを貯めていくことが大切です。
導線設計で失敗すると良質なコンテンツも伸びない
—— YouTubeやTwitterなど、他の媒体と併用してコンテンツマーケティングを進めている企業も多いように思いますが、Instagram独自の強みはどういったところなのでしょうか。
富田:主要なSNSのなかで、企業からフォロワーへのアクションが最も取りやすい媒体であるという点が大きな強みですね。企業ブランドでもファンを集めやすく、フィードなどを通じて既存のフォロワーにしっかり見てもらえるため、CRM(顧客との関係構築)ができるというのが特長です。
その一方で、BtoB企業においてInstagramを使ったマーケティングは、そこまで効果が期待できないように思います。たとえばTwitterやYouTubeの一部分を切り抜いたものをリール化するといった形で、他メディアと並行してInstagramもやっていくのはいいと思いますが、本質的にはBtoBとの相性はあまりよくないというイメージを持っていますね。
—— BtoBの場合はTwitterやYouTubeをメインとして運用し、Instagramはサブ的な要素として使っていくことが望ましいのですね。こうしたコンサルなど、貴社で支援された事例をお教えください。
富田:我々は戦略面から、「正しい軌道にクライアントを乗せられるか」を重要視しながらサポートを行っているので、支援内容に関しては本当に多岐にわたります。Instagram全体のマーケティング戦略を設計するところからのサポートもありますし、既存のアカウントにおけるマネタイズの導線設計から組織体制の改革サポートのような形もありますね。
小売系のBtoC企業の例になりますが、支援後およそ3か月でフォロワー数が2万人から5万人になり、サイトの遷移数も3倍から5倍に跳ね上がった事例があります。こうしたフォロワー数・遷移数の増加は珍しくないですね。
良質なコンテンツを出しているものの、マネタイズの導線設計がうまくいかないために売り上げにつながらなかったり、逆にフォロワーを求めすぎてしまい結果的に伸びなかったりという企業もありますし、そもそもKPIの設計がずれているというケースもあります。当社のマーケティング支援事業では、そうした課題を解決するお手伝いをさせていただいています。
Instagramは「企業が顧客をファン化できる1番の媒体」
—— コンテンツマーケティングの中で、Instagramは今後どのような立ち位置を占めるのでしょうか。
富田:今後は日本全体の人口減少が加速するので、市場全体でみると「新規顧客を獲得し続けること」はどの企業にとっても今以上に難しくなると考えています。いかに買い支えてくれるファンを多く持てるかという中長期の視点が大事になるのですが、Instagramはフォロワーに対して1番影響を与えられるプラットホームなので、企業が顧客をファン化できる1番の媒体だと思います。
一方でInstagramマーケティングに費用をかけすぎている企業や、そもそもの戦略がずれているという企業も多いです。例えばアカウントの運用代行において、支援会社に月当たり100万円近くかけてお願いしている会社も多くあります。運用規模などにもよりますが、おおよそ0.5人月あれば運用できたりもするので、そうしたところを内製化できれば大きくコストカットできますね。
—— 貴社の展望についてもお聞かせください。
富田:当社では既存施策のコストカットをしながら、マネタイズの動線改善など売り上げにつながるような戦略設計などのサポートを行なえるので、今後はよりInstagramマーケティングにおいて、売上利益を最大化できるような支援の拡大ができたらと考えております。
また部署を横断して運用した結果、施策の方針がバラバラになってしまい効果の最大化ができていない企業もよくありますね。こうした戦略のずれからマーケティングコストが無駄になっている企業に対しては、当社が全ての施策をしっかりつなぎ合わせることで、コストをカットしながら売上に貢献していきたいと思っています。
広告代理店・事業主の両⾯を経験したメンバー構成で⾃社ブランドを様々なプラットフォームにて展開し、累計200アカウント・500万フォロワーグロースを達成。それらのノウハウを活かしたナレッジをもとに企業様のマーケティング支援事業を展開。特に戦略設計サポートに定評。
編集後記
リールやストーリーズなど、機能によってアルゴリズムも変わるInstagram。ハピラフ自体もInstagramを活用し、さまざまな施策を試しながら事業を展開しているため、富田氏は「支援事業においては最適なスタッフをアサインできる」と胸を張る。各機能の性質を理解した人員がいることはInstagramでのマーケティング戦略に不可欠であり、「施策の土台になる戦略が間違っていると、全ての施策が無駄コストになっていく」と警鐘を鳴らした。Instagramマーケティングの知見を持たない企業は、こうした経験ある外部企業をパートナーとして活用することが売上最大化への近道になるといえるだろう。
取材・構成:MARKETIMES編集部・中島佑馬
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