企業が自らの持つ情報を発信し、集客やブランディングに役立てるオウンドメディア戦略。誰もが知る大企業から小規模事業者まで、業種業態を問わず多くの企業が取り組んでいる。しかし、Googleアルゴリズムの変化やChatGPTをはじめとするLLM(大規模言語モデル)の出現など、オウンドメディアを取り巻く環境は常に変化し続けている。株式会社デジタリフトSEOコンサルタント・城所氏に、オウンドメディア戦略の成功ポイントや同社の支援事業について取材した。
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ボリュームが少なくとも「刺さる」キーワードで攻める
——toBビジネスを展開する企業がオウンドメディアで情報を発信する際は、どのようなところに気を付けるべきなのでしょうか。
株式会社デジタリフトSEOコンサルタント・城所秀征氏(以下、城所):まず、toCの場合は売り上げ=CVになるケースも結構ありますが、toBの場合は基本的にメディア内だけで売り上げが完結しないケースがほとんどです。そのためセミナーやホワイトペーパーといった、さまざまなコンバージョンポイントがあるというのが特徴です。
とはいえ、例えばナーチャリングする体制もないのに「とりあえずホワイトペーパーをダウンロードしてもらっている」という施策は意味がありません。しっかり戦略を組んでおかなければ、流入を産んでも売り上げにつながらないのです。
toCの場合はお問い合わせからCVすることが最終的なゴールになりますが、toBの場合は最終的な成果(売り上げ)から逆算をして作っていかなくてはなりません。1件のCVで得られる売り上げもtoCより大きいので、CVをしっかりKPIにおいて運用する必要があります。
具体例を挙げると、メディア経由で月2件の受注が取れれば利益が出るという場合、ホワイトペーパーなどに流すよりも、検索ボリュームは少ないもののCVRが高いキーワードだけを取っていくというのも戦略の1つです。「月2件の受注」から逆算して、商談可率90%・受注率50%のキーワードならば月間8~9件の流入があれば売り上げにつながります。検索ボリュームやPV数だけに縛られず、CVするキーワードで攻めていくことが大事ですね。
——こうしたオウンドメディア戦略においては、どのような点に気を配るべきなのでしょうか。
城所:流入した見込み客はお問い合わせをしようと思っているのか、情報収集をしに来たのかで大きくユーザーの検索意図が異なるので、検索意図に合わせてお問い合わせまでの階段を踏んでもらうことが大事ですね。toBの場合はいきなり問い合わせるハードルが高いですし、顧客からしてもツールやサービスを探しているにしてもいきなり営業されたくないという心理があります。
逆に言えば営業される前の段階で意思決定をしているケースが多いので、お問い合わせに至るまでには「今まで営業でやっていたことをナーチャリングの中で実行する」という意識を持って運用するといいかなと思いますね。
部署間の連携は相互理解が不可欠
——オウンドメディア戦略においては部署横断で取り組むことも往々にしてあると思いますが、部署間の連携においてはどういったことを意識するべきなのでしょうか。
城所:マーケティングの指標を追うだけではなく、その後の商談のところまで追っていくという点を意識すべきですね。リードを供給しているだけでは売り上げに繋がらないことを、マーケター側がよく理解しておくべきだと思います。
よくあるのが、営業の欲しいリードとマーケター(オウンドメディア)側から供給されるリードが異なっているというものです。こうなると営業とマーケター信頼関係が薄まってしまい連携もうまくいかなくなるので、成約につながるリードがどういったものかをよく認識することが重要です。
——どういうリードが欲しいのかをマーケターに伝えるという、営業側からのアプローチも重要になりそうですね。
城所:互いに情報を伝えあうことで、「こういうことに悩んでいる人からのリードが欲しい」「こういう理由でこちらの方がLTV高いから狙っていきたい」といった相互理解が可能になりますね。
またよくある失敗例として、マーケター側が妄想で作ったペルソナみたいなのができることもあります。「来訪者はこういうことで悩んでいる」というポイントがある程度明確なのに、マーケターが想像で作ってずれてしまうというケースですね。
実際にお客さんと接している営業が一番お客さんのことを知っているので、しっかり連携できていなければ最もメディアで発信したいところがずれてしまいますし、良質なリードも送れなくなります。そういう意味では、営業とマーケターで「言っていることが一致しているかどうか」も重要になります。
オウンドメディアへの貢献を評価基準に組み込む
——記事を目にする担当者と導入可否を決める決裁者が異なることも多いと思いますが、こうした立場の違いもオウンドメディア戦略に影響を与えるのでしょうか。
城所:ここは決済者を打ち合わせに引き出して決済をもらうかによっても変わると思うので、業界や企業ごとに異なるためクライアントへのヒアリング調査を行なってから、ペルソナの設定などを行うべきですね。
我々がコンサルに入る際にも、「普段どういう営業フローなんですか」と聞くと「分かりません」と答える方が結構いらっしゃるので、どういうクライアントにどう売っているのかの理解は非常に重要だと感じます。
マーケターとしては決済者を狙っていくべきだと考えていても、実際の営業フロー的に担当者からエスカレーションをしていくという場合は、担当者をペルソナに置く必要があると思いますね。ただその事実を知らないでいると、決済者をどう取ろうかという思考に陥ってしまいます。
またtoBに関しては、マーケティングの部署を独立して持っていない企業も結構あるので、そうした企業では営業部長みたいな方が決済権を持ってたりします。事業規模が小さいほど決裁者が商談に出られるのが早いので、個人的にはそういうところも抑えておくとCVRにつながりやすいと感じますね。
我々が定性調査をした中には、ツールの選択決定権が情シスにあるという企業もありました。こうした情報は実際に聞かないと得られないので、ヒアリングは非常に有効な手段です。
——部署横断的な連携がうまくいかないという企業もあるかと思いますが、こうした企業はどのように改善を図っていくべきなのでしょうか。
城所:これも会社によるとは思いますが、経営陣からのトップダウンで変えていくというのも1つの手だと思いますね。オウンドメディアは一朝一夕で成果が出る施策ではないので、1つ1つ成功事例を作っていくという意識を会社全体で持っておくことが大事だと思いますね。
また、営業部の中でも役職や役割が異なるので、そこから協力してくれる人を探すところから始めていくのもいいと思います。ただ実際に手を動かしてもらう段階になるとどうしても難しくなるので、他部署の評価制度にもオウンドメディア関連の項目を入れられるとベターです。
社内の中でその取り組みが認知されれば予算も降りてくると思いますし、社内の協力者が増えれば知識・経験のある人が記事を書いてくれたり、監修してくれたりといったことが起きやすくなるかなと。
営業側としても、商談の際に自社メディアで掲載した導入事例を見せることでアピールできたり、新人教育の教材として使ったりとさまざまな活用ができるというメリットがあります。さらにオウンドメディアから良質なリードが獲得でき、それが数字につながったという認識を持てれば、売り上げを作る機会が増えるので連携も進みやすくなるでしょうね。
多くの会社では定数調査をやってくれるのも営業部になると思うので、マーケの中だけで完結させず他部署もしっかり巻き込んでいくための仕組みを作ることも、オウンドメディアを成功させるための大きなポイントといえます。
クライアントと同じ目線で事業を理解するオウンドメディア支援
——オウンドメディア運営を外注している企業もありますが、インハウス・外注それぞれのメリットとデメリットを教えてください。
城所:まずインハウスのメリットは、自社のクライアントや商材に対してもともと理解があるため記事の内容や戦略方針がブレにくいところですね。また、十分なリソースがある場合は記事作成や調査などの分業などもできるので、いろいろと動きやすいという点も挙げられます。社内に十分なリソースと知見がある場合は内製した方がいいと思います。
デメリットとしてはリソースを確保しないといけないので人を採用する必要があるという点です。オウンドメディアを縮小・撤退するとなった際にフレキシブルに動けないので、こうした人件費をかけたくない場合は最初から外注してもよいかと思いますが、そうした場合でも記事監修などは自社で行うべきですね。
外注のメリット・デメリットはインハウスのそれと裏返しになりますが、まずメリットとしては契約の範囲内でならいつでも施策をやめられるというのがポイントですね。リソースを自社内で確保する必要がないので、予算さえ組めれば施策を回せるというのはあります。
また発注内容によっては人を雇うより外注したほうが安いこともありますし、社内にマーケティングの知見がなくても専門家に任せることでプロジェクトが回っていくのも魅力です。
一方デメリットとしては、代理店によってはペルソナなどの深い部分まで踏み込んでくれないとか、納品物の質が低いといったトラブルが起こる可能性があることです。専門性が高いことを外注先に求めても上手くできないところのほうが多いので、期待した内容と得られる成果が異なってしまう可能性がある点には注意が必要ですね。
——最後に、貴社で行なっているオウンドメディア支援についてお聞かせください。
城所:シンプルなSEO支援はもちろんですが、他社と大きく異なる点として、事業理解やペルソナといった「お客様の理解」「ユーザー起点」を重視しています。クライアントと同じところまで知識をインプットしていくというのが大前提であり、専門性の高い領域であっても同じ目線でお話ができるようなレベルまで知識を高めて、施策の提案・運用などを行っています。
また、具体的な支援に入る前に「どういう人に売るべきなのか」を明確にするのも当社の特徴だと思っています。最初に営業さんへのインタビューなどの定性調査を行い、お客さんはどういうところで悩んでいるのかを伺うのはもちろん、支援をご依頼いただいたクライアントさんと競合するツールを使っている会社さんを調べて、そこに対してインタビューさせてもらうこともありますね。
今まで「なんとなく」でやっていてブラックボックス化しているところを明確にすることにも力を入れています。たとえばSaaSの場合はリプレイスの場合ならこういうコンテンツが必要で、新規導入の場合だとこういうコンテンツが不可欠だというものも結構あるので、調査などで定性的な情報を得たうえで深堀りしていくことに力を入れています。
そのうえで営業フローやペルソナの定義を行い、社内のリソースや展示会での反響などすべての情報の整理・棚卸しをしてKPIを設計するという形です。クライアント側は業界知識があり、我々にはマーケティングの知識があるので、ここが点ではなく線でつながった施策にすることで成果を最大化するという姿勢で取り組んでいます。
デジタルマーケティングを包括的に支援する株式会社デジタリフト。SEOサービスの「Media LIFT」ではオウンドメディアの構築から運用サポートまでをワンストップで提供。
流入だけ増えて成果に繋がらないといったよくある課題も、戦略面から伴走することで解消していく。
必要に応じて記事制作代行も行っており、BtoCやニッチなBtoBまで対応。クライアントの業界理解、商材理解を徹底的に行い記事を作成するため、SEOで順位を取るだけではなく、
ユーザーにとって価値のある高品質な記事を作成できることも強み。
編集後記
オウンドメディアはもとより、SEO記事作成などにLLMを使用する企業も増えているが、「LLMがより台頭しても、オウンドメディアの在り方はあまり変わらない」と語る城所氏。一方で、「オウンドメディアを活用する企業は今後増えていく」という。
背景にあるのはテレワークの一般化だ。ユーザー側が能動的にサービスを探すという行動が社会全体に染みついたことで、「マーケティングに注力する企業が増え、オウンドメディアの需要も高まる」と予想する。
さらに参入企業が増えると当然競合が増えることになるため、出すべきコンテンツに対してより専門性の高い領域が求められることから「記事内容の差別化も必要になるので、高度な専門領域ではLLMに頼らず人の手で記事作成を行うべき」と続けた。
Googleが評価基準として導入したE-E-A-Tなど、コンテンツマーケティングに求められるレベルは日々上がっている。今後は部署内の連携はもちろん、マーケティングの知識もオウンドメディア運営に不可欠なものとなりそうだ。
取材・構成:MARKETIMES編集部・中島佑馬
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