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画像認識&分析でデータ導出 エッジAIプラットフォームの国内トップシェア「Actcast」の今後の展望【Idein株式会社執行役員・小澤俊輔氏インタビュー】

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カメラなどの末端装置に搭載され、端末側でデータ推論などを行うエッジAI。「Actcast」はそのエッジAIにおけるプラットフォームで国内トップシェアを誇る製品だ。JR大宮駅で6月30日に開業した商業施設「えきたびマーケット」でオンライン接客の実証実験を行うなど、そのポテンシャルに大きな注目が集まっている。実証実験の手ごたえや今後の展望などを、Actcastを展開するIdein株式会社・小澤俊輔氏に取材した。

AI活用から独自アプリの開発・運用まで実行可能なプラットフォーム

—— 「Actcast」とはどういった製品なのでしょうか。
小澤:一言でいえば「エッジAIのプラットフォーム」になります。エッジAIとはカメラなどの端末に搭載されるAIのことで、Actcastは端末側で情報を収集・推論しテキスト化したデータをクラウド上に送る機能を持つ製品です。プラットフォームの特徴としては、遠隔でファームウェアのアップデートやバグの修正などを行ったり、端末にアプリをインストールしたりといったデバイスの「管理」ができるという点が特徴です。

またActcast上で動くアプリの開発・運用も可能で、外部ベンダーに当社のソフトウェア開発キットをお渡しし、独自アプリを展開していただくこともできます。ユーザー・ベンダー双方に訴求できるシステムになっているのも、Actcastの強みですね。また、Actcastアプリは安価なGPUであるRaspberry Piで推論を回せることも強みです。累計導入台数は15,000台を突破しており、エッジAIプラットフォーム市場では国内トップシェアを獲得しています。

Idein株式会社 事業開発本部 フィールドセールス 執行役員・小澤 俊輔様の写真

Idein株式会社・事業開発本部 フィールドセールス 執行役員 小澤俊輔(こざわ しゅんすけ)氏

慶應義塾大学経済学部卒業後、豊田通商株式会社でフィリピンに駐在し、鉄鋼・非鉄金属のトレーディング事業に従事。最先端の技術に触れながら、自社プロダクトで社会貢献したいと思いIdein株式会社にジョイン。現在、主に自動車業界や小売業界のDXに従事している。

—— 創業時の理念から開発した製品に、市場のニーズがかみ合ったのですね。
小澤:ローンチする際に「ユーザーとベンダーどちらを優先的に呼び込むのか」という議論が社内で起こりましたが、ユーザーに認められているからこそベンダーを呼び込めるという考えで展開を進めています。もともとベンダー側にも向き合った設計にもなっているのですが、結果的に市場のニーズに合致したことからユーザーの導入実績が増えており、実績増加に伴ってベンダーも増えています。

小売業中心に多くの実績、精度向上に貢献する新たなアプリも開発中

—— どういった企業からの引き合いが多いのでしょうか。
小澤:あらゆる業種から引き合いがあるのですが、百貨店や商業施設、キャリアショップなどの小売業からの引き合いが多いですね。また画像認識への関心が高い製造業からの引き合いもあり、とくに当社株主でもあるアイシン様からは受託開発も請け負っています。こうしたご縁がきっかけで、Actcast上で稼働する製造業向けのアプリの展開につながりました。これまでは小売業を中心に実績を積んできましたが、今後は製造業を中心にさまざまな業種へActcastを展開していきます。

—— 導入事例をお教えください。
小澤:そごう・西武様では人流解析に当社Actcastのアプリケーションを利用いただいています。他にもイオンレイクタウン内に店舗を構えるテナントの顧客分析や、JR大宮駅での「えきたびマーケット」にて行われているオンライン接客の実証実験にも導入されています。

—— 画像分析において、性別や年齢の誤検知はどれほど起きるのでしょうか。
小澤:よくお客様にも聞かれるところなのですが、AIによる画像認識はかなり繊細な面があり、照明や時間帯などその場の明るさによって判別結果が変わります。そのため当社としては、精度保証などは行っていません。ただし無作為抽出した1時間のデータを使った精度検証では、テキストデータと人間の主観の比較において、クライアントから一定以上の評価をいただけるような結果が出ています。

AIの精度はデータを収集した後の「再学習」でさらに向上できるので、Actcast上でデータを収集するアプリケーションを導入・活用することで、さらに精度を上げられます。また、精度向上に効果の高いデータをデバイス側で判断して収集する機能を持つアプリの開発も進めており、来年中にローンチする予定です。

新たな取り組みにも一定の成果、パッケージ販売にも意欲

—— 「えきたびマーケット」では、ECサイトなどWeb上のストアで行われているファネル計測を、実店舗でも行おうという実験がなされています。こうした実証実験を行うに至った経緯をお聞かせください。
小澤:もともとJR東日本様は当社のクライアントとしてお付き合いをさせていただいており、リアル店舗の「JRE MALL Cafe」や、ショーケース型店舗「JRE MALL Car」への集客や店舗滞留率向上を目的とした施策提案などを行っていました。そうした中でJRE MALL Carでの展示をECにつなげて売上を上げたいという要望があり、ショーケース周辺やJRE MALL Carが入っている商業施設「えきたび」の交通量がわかれば顧客の分母・分子がわかることから今回の実験に至ったというのが経緯になります。

さらにシスコシステムズ様よりデバイスを提供いただいたことで、「JRE MALL Meet」でのオンライン接客と掛け合わせることで何かできるのではないかと思い、カメラによる人流検知とSlackを連携させて来客時に接客スタッフへ通知がなされるという、オンライン接客システムにおける新しい取り組みの実証実験も行うことになりました。

—— オンライン接客はどういった流れで行われるのでしょうか。
小澤:顧客がアプリ内で設定したエントランスライン(画角の中で引かれる線)をまたいだ時に、事前に属性検出した顧客データがクラウドに上がるという仕組みになっています。またいだと同時にオペレーターへslackの通知が行われるので、そこからシスコシステムズ様の会議ツール「Cisco Webex」を使用したオンライン接客が始まるという流れです。

—— 実験から1か月が経過しましたが、手ごたえとしてはいかがでしょうか。
小澤:タイムリーに接客できるようになったことで、売上に一定の効果があったのではないかと思っています。一方で接客担当者がslackの通知を受け取ってからデバイスを立ち上げるまでに一瞬のタイムラグがあり、そのラグの間にお客様が離れてしまうという課題も見つかりました。いまは当社のアプリから、ダイレクトにデバイスを立ち上げられるような機能を検討しています。実験で得た課題を解決し、よりよいものを提供できるようにしていきたいですね。

—— 今後シスコシステムズのデバイスと、Actcastを1つのパッケージとして販売することはあるのでしょうか。
小澤:当社としてもそういうパッケージができたらいいなという思いはあり、先方ともそういう話をしています。OMOを通じてオンライン・オフラインの垣根はなくなっていっているところもあるのですが、最後の購買行動のタッチポイントとして、インターフェースを置けることが大きな価値になってくると考えているので、ぜひ今後提携させていただきたいと思っています。

オンラインでも「会話」が売り上げに貢献、データ活用が成功のポイント

—— オンライン接客のメリット・デメリットをお教えください。
小澤:属性分析により来店した顧客の属性を知ったうえで接客できるため、オフラインと同様にタイムリーな接客ができることが大きなメリットだと思っています。購買の最終ポイントのところで会話ができるので、通常のEC店舗以上に売上増加が見込めるのではないでしょうか。一方で購入チャネルはECになるので、購入してから商品が手元に届くまでのタイムラグがあるのは、オフライン店舗と比べるとデメリットかなと思っています。

—— 注文を受けてから生産や発送を行う商品の販売において、こうしたOMOは大きな効果を持つように思います。いま引き合いがあるクライアントからも、そうしたところを期待されているのでしょうか。
小澤:ゆくゆくはそういったニーズを満たしたいと思っています。EC上の在庫とリアル店舗の在庫が連携するような仕組みも検討しており、そのなかで画像認識は大きな役割を担ってくると考えており、パッケージ化も含めてさまざまな可能性を検討しています。画像データの精度といった基本的な要素やオペレーションなどをさらにブラッシュアップして、ニーズのあるところに訴求していきたいですね。

—— OMOの導入はどこも手探りで進めているように思うのですが、こうした現状についての所感をお聞かせください。
小澤:OMOの推進によりオンライン・オフラインの販売チャネルの融合が進むなか、消費者は「便利な方で買う」「好きな方で買う」という選択ができるのが市場のあるべき姿だと思っています。クライアント側もOMOを含む広義のDXに対して、うまく活用して昇華させることに苦戦しているようなので、こうしたDX推進に対し「部分的にしかできていない」ではなく、「いち部分から徐々にDX化を推進している」と捉えてほしいですね。

そうした中で当社では顧客分析などの「データを取る」という部分をやらせていただいているのですが、小売業で導入・サポート実績を積み上げたことで、テナントや棚前の動きから売り上げの向上を目指す店舗や企業から引き合いをいただいている状況です。今後はこれまでの実績や、実績を積み上げた中で得た知見を活かし、製造業など小売業以外の導入シェアを上げていきたいと思っています。より多くのファネルでActcastが提供できる価値を増やすことで、OMOやDXの推進に貢献していきたいですね。

—— 貴社の今後の展望についてお聞かせください。
小澤:当社は「Saya」に代表されるマルチモーダルエージェントの開発にも参画しており、こうしたエージェントによる店舗案内や接客など、さらなるOMO推進のきっかけになるものをActcastとセットで提供したいと思っています。まだまだ先の話にはなるのですが、オンラインとオフラインの融合に一役買っていきたいです。

また当社では棚前の動きのような、来店から購入までの部分を収集・分析できるのですが、その分析したデータをPOSや人流データとつなげて活用するという点にはまだ課題があると認識しています。こうしたデータ活用がビジネスを成功させるカギになるので、他社との連携も視野に入れつつ、データをどう「料理」するかというところも取り組んでいきます。

Actcastユースケース図

エッジAIプラットフォーム「Actcast」は、画像や音声等の解析技術を用いてデータを収集・活用し、DXを促進する国内シェアNo.1のエッジAIプラットフォームです。
独自の高速化技術によりAIモデルの軽量化をすることなく、最先端のAI解析を低コストでご利用いただけます(通常は数十万円のデバイスを使用するようなAI解析を数千円のデバイスで使用可能)。
また、プライバシーや個人情報に配慮しながら利用可能な点や、リモートで複数デバイスの管理・運用ができ、メンテナンスの手間が低減できる点も好評いただいています。
Actcastサービスサイト

「国内シェアNo.1」について

デロイト トーマツ ミック経済研究所 『エッジAIコンピューティング市場の実態と将来展望 2021年度版』 「エッジAIプラットフォームのベンダシェア(台数)」による

編集後記
「OMOを牛耳る」というスローガンを掲げている小澤氏。事業戦略の関係で小売業から展開したが、今後は製造業などの堅い領域にもActcastを広げていきたいと語る。Actcastの今後の展開について、「小売業に特化したプラットフォームのように思われるところもありますが、さまざまな業種・業態で使える製品です」と自信をのぞかせた。画像認識などさまざまな場面で活用できる製品だけに、各方面から引き合いの絶えない「千両役者」となるポテンシャルも秘めている。

取材・構成:MARKETIMES編集部・中島 佑馬