BtoC企業向けコミュニケーションプラットフォーム「MicoCloud(ミコクラウド)」を展開しているMicoworks。2023年11月に、中国やイスラエルなど海外6か国に展開する、Vertex Holdings傘下の全世界的なベンチャーキャピタル・Vertex Growthをリード投資家に迎え、シリーズBラウンドで総額35億円を調達した。厳選した投資先のみに深く投資する同VCからの資金調達の背景や今後の展開について、Micoworks取締役COO・八重樫健氏に取材した。
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クロスチャネル+データ活用で海外展開を加速
—— まず、貴社の事業概要について教えてください。
Micoworks COO・八重樫健(以下、八重樫):当社はBtoC企業向けのコミュニケーションプラットフォーム「MicoCloud」を展開しています。MicoCloudはLINEを活用して企業とユーザー間のコミュニケーションを活性化することで、企業の売上を最大化するプラットフォームであり、BtoC事業者のブランド成長を加速させることにコミットするプロダクトです。
BtoC企業においては、これまで消費者とのコミュニケーション手段は電話・メールに限られていました。しかし日常生活で電話やメールを使う機会は減少しており、ユーザーが普段使うコミュニケーション手段と、企業から消費者へアプローチする際のコミュニケーション手段の間で「ねじれ」が生じています。MicoCloudは、ユーザーが家族や友人とやり取りをするように企業とコミュニケーションできるプラットフォームを提供しているという形です。
—— 今回の資金調達の背景と経緯を教えてください。
八重樫:当社では、「2030年までにアジアNo.1のブランドエンパワーメントカンパニーになる」ことを中期目標として掲げています。今回の資金調達は、この目標に向けたプロダクトアップデートとグローバル展開を主眼に置いたものになりますね。まずはLINEの利用率が高い国への展開を目指しており、海外展開しながらさらにプロダクトに磨きをかけるべく、開発体制や人材確保、プロダクトへの投資に更に注力していきます。
プロダクトについては、現在LINEにフォーカスしたプロダクトであるMicoCloudをクロスチャネル化していく方針です。海外進出の際は「その国で使われているチャネルをいかにカバーしていくのか」が重要になるので、現在LINE以外のチャネル検証も進めています。
また、クロスチャネルで成果を上げ続けるためにはデータとAIの活用が不可欠です。生成AIも含め、AI領域のさまざまな角度からどのような活用ができるか検討しています。特に台湾にはAI・マシンラーニングの技術者が多いので、データサイエンティストを採用するために台湾での採用を加速しています。
つまりはクロスチャネルでのコミュニケーションを可能にしたうえで、データ活用で成果を出し、グローバルで活用いただける形に進化させていくという方針です。今後もここは大きな投資領域になるととらえています。
人材獲得のグローバル化で「利益の最大化」ができるプロダクトへ
—— MicoCloudにAIを活用することで、どのような形で顧客利益の最大化を実現されるのでしょうか。
八重樫:AIを使ってやりたいことは以下の3点です。
- セグメンテーションの自動化
- コンテンツの自動生成
- チャネルの最適化
この3点をAIで自動化したいと考えていますし、とくにターゲティングという観点からいえば、チャネルの最適化はクライアントに大きなメリットがあると思いますね。
—— 前回(2022年2月)の資金調達では、人材採用も含めた開発組織体制の強化を図られたと伺っています。調達時に描いていた青写真は実現できたのでしょうか。
八重樫:結論としては、かなり実現できたと感じています。資金調達後に多くのハイレイヤーのメンバーにジョインしてもらえましたし、シリーズAでやりたいことの1つだった開発陣の強化についても、50名程度まで成長しました。採用面についてはかなり順調に強化できていますね。
しかしながら、「アジアNo.1のブランドエンパワーメントカンパニーを目指す」ためにはさらに採用を加速しなければなりません。AIやマシンラーニング領域での採用が最重要課題になるので、国内だけではなくマニラや台湾などのグローバル採用によりフォーカスして、開発体制の強化スピードを上げていきます。
23年11月には元スマートニュースのSenior Director of Productであった小越が新たにMicoworksのVP of Productに就任することとなり、グローバルで勝ちきれるプロダクトチームの体制を強化することができています。
Vertex Holdingsから評価された3つのポイント
—— 今回のステージBからは、リード投資家としてVertex Growthが名を連ねました。
八重樫:もともとシリーズBの位置づけとして、我々がグローバルな視野・知見を取り入れ、グローバル展開のスタートラインに立つためにも、最初から海外の投資家にジョインしてもらうことを決めていました。
Vertex Growthは限られたスタートアップにのみ投資を行う、かなりセレクティブなVCです。そのため事業解像度が高く広範に投資するVCよりも、必然的にデューデリジェンス(投資先への調査・評価)でのメトリクス精査や、求められる議論もより深いものになります。
そうなると、事業展開の中で行なう経営チームとしてのディスカッションのクオリティも非常に高くなるため、事業の成功確度を高めることができます。グローバル展開に対する知見と事業解像度の高さを兼ね備えていたVertex Growthはもっとも参画いただきたかったVCの1社だったので、入ってもらえたのはありがたかったですね。
—— Vertex Growthは、貴社のどのような点に魅力を感じられたのでしょうか。
八重樫:TAM(獲得可能な最大市場規模)の大きさ、グロースレートとグロースエフィシェンシーなどメトリクスの数字、人材のクオリティの3点を評価いただいたと考えています。
TAMの大きさはVCとして最も重要な部分であり、とくにVertex Growthは「カテゴリのNo.1になれるかどうか」を重視しています。その中で日本のレガシー産業に挑む我々は、当該カテゴリのNo.1になれる企業だという評価をいただきましたし、電話やメールといったレガシーなツールからのアップデートは、国内だけでも1,000億円を超える非常に大きな市場があります。
MicoCloudの活用実績としては1,000ブランドあるのですが、ポテンシャルとしては国内だけでも5,000以上に広げられる余地があります。この5,000ブランドで1,000億を作ることは十分に可能だと思っていますし、そういった市場感も含め当社の市場の成長可能性は非常に高いと判断されました。
「SaaSプロダクトであれば評価される時代」は終わりました。高いグロースレートとグロースエフィシェンシーを実現する高い評価のSaaSプロダクトとそうでないものが明確に分かれるようになったので、どれだけ高い成長率をどれだけ高い効率性で実現できているかが非常に重要視されています。
人材のクオリティについては当社の採用力や代表・山田の事業立ち上げのスキルはもちろん、直近でジョインしてもらったハイクラス人材のスキルや経歴などを評価いただきました。SalesforceやSmartNewsなど大手企業で活躍する人材を集めた、国内有数の経営チームも非常に高く評価いただきましたね。
—— 評価ポイントの1つとなった、高い成長率を持続できている理由は何なのでしょうか。
八重樫:MicoCloudの市場自体が、圧倒的な追い風の吹いている領域であることは大前提としてあります。どのBtoC企業も顧客接点の再構築は経営イシューの一つです。
その中で、多くの消費者を抱えるエンタープライズ企業は顧客接点の再構築ニーズが特に深く、MicoCloudによって解決できる素地があると判断しました。こうした背景から事業戦略として掲げた「エンタープライズ企業にフォーカスを当てる」という方針を、我々の明確なポリシーとしてやってきたことが高い成長率につながりました。
東京海上日動様をはじめとする業界のリーディングカンパニーにも使っていただいていますし、Micoworksの売上の約半分はエンタープライズ企業になっています。ここが最も当社の成長を牽引している領域です。機能面はもちろん、プロダクトの販売・支援体制も含めて、MicoCloudを初期からエンタープライズ企業向けのプロダクトとしてアップデートできたことが、最大の成長要因だと思っています。
掲げているビジョンや組織したチームが素晴らしくても、実際に課題解決を行い、それに伴うトラクションがついてこなければ投資いただける企業にはなりません。今回のタイミングで高いグロースレートとグロースエフィシェンシー(成長効率)を実現できていることが、最高の投資家の方々からの総額35億円の資金調達という最良の結果につながりました。
エンタープライズ企業に寄り添い、アジアNo.1を実現できる体制を整備
—— 最後に、今後の展望についてお聞かせください。
八重樫:MicoCloudをクロスチャネル化することでコミュニケーションを最適化し、最終的にブランドの売上や成果を最大化できるプラットフォームにしていきたいと考えています。クライアントが自社で保有するデータや、自社サイトに来訪したユーザーのデータもリアルタイムで使えるように連携しており、ここにAI・マシンラーニングを活用していく方針です。
クロスチャネルにおいては、LINEだけではなくメールやSMSなども含めたクロスチャネルでのコミュニケーションをいかに作るのか、チャネル間でのカスタマージャーニーをいかに最適化・自動化できるかが非常に重要です。ここまでやりきれているプロダクトはなかなかないので、データ連携と合わせて注力していきたいですね。
また、今後についてはLINEヤフー株式会社との連携も強めていきます。とくにエンタープライズ企業では、各種データを連携してマーケティングに活用することの重要度が上がっており、LINEヤフーの戦略としても当社のようなAPIパートナーとの連携をより重視していく方針です。当社としても、そうしたLINEヤフーが描く事業構想の方向性にも沿った形でMicoCloudを展開していきます。
SaaSはプロダクト開発やセールスなどの「人」が資産となるビジネスでもあるので、Micoworksもさらに採用を加速させる必要があります。獲得競争は激しいですが、エンジニアリングやデータサイエンティストなどのグローバル採用をこれまで以上に加速・強化して、「アジアNo.1のブランドエンパワーメントカンパニー」という中期目標に向かって、必ず実現していきたいと思います。
編集後記
アデコグループなどが発表している国際人材競争力指標(※1)によると、2022年時点で日本の競争力は24位と振るわず、G7内で下から2番目という結果になっている。しかし、Micoworksは日系企業でありながらグローバルに活躍できるハイレイヤーの獲得に成功し続けている。
この秘訣について、八重樫氏は「メガベンチャーに引けを取らない高い給与水準」「経営陣が採用にコミットする」ことの2点を挙げた。とくに経営陣が採用にコミットするという姿勢について、「1人を採用するために、採用に関与した全メンバーからのオファーメッセージやオフラインの接点を設けるのはもちろん、経営トップが本当に採用したい方に納得いただくため、その方の家族に手紙を書いて口説くこともある」という。日系企業ではなかなか見られない光景だが、「経営トップが率先して採用にコミットするためのアクションを取り続けていることが我々の強みの一つ」と胸を張った。
こうした採用活動を通じて得られたMicoworksの人材について、八重樫氏は「会社から何をもらえるかではなく、会社に何を与えられるかを優先的に考えるGiverな人が多い」と語る。グローバル企業へと成長するには欠かせない企業カルチャーが、こうした採用への姿勢にも表れている。
※1 The Global Talent Competitiveness Index 2022
取材・構成:MARKETIMES編集部・中島佑馬
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