昨対184%を実現した「メルカリUS」のキャンペーン成功事例  CRMテクニカルディレクター現王園氏が語る具体的な戦略と戦術【Forge Japan 2022 講演】

メルカリUS

メルカリUSでは、ユーザーの行動に基づいたアプリやWebでのチャネルを横断したキャンペーンにより、パーソナライズされた顧客体験を提供している。アプリの新規ユーザー数を増加させ、MAUを活性化させることによりビジネスの成功を導いた。2022年7月のFORGE Japan 2022に登壇したメルカリUS CRMテクニカル ディレクターの現王園 浩士氏は、具体的に実践されたキャンペーンを紹介。ユーザーの行動データを元にしたキャンペーンの設計方法や、顧客のエンゲージメントを高める仕組みなどを事例に沿って説明した。

BRAZE

Forge Japan 2022 – 2022 年 7 月 12 日 (火) 開催

 メルカリUSは「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションのもとに「Mercari.Inc」としてオフィスが2014年に設立された。

 簡易的に歴史を辿っていくと、2014年設立と同時にメルカリUSのアプリBeta版がリリースされ、10%の手数料開始ののちに、執行役員John LagerllingがChief Business Officerとして参画。2018年にはメルカリUSのリブランドおよびアプリのリニューアルが行われた。さらに約2年後には第四四半期で月間CMV100ミリオンUSドルに到達し、翌年には初となる営業黒字を達成。その後はUber社とパートナーシップを組み、「Mercari Local」サービスを全米に拡大していくこととなる。

現王園 浩士
登壇者:現王園 浩士
メルカリ US CRM テクニカルディレクター

東京大学卒業後、インド最大のIT企業TATA Consultancy Services Japanに入社。インドで半年間プログラミングの研修を受け、帰国後ブリッジエンジニアとして勤務。その後、ビズリーチに入社し、新規事業の立ち上げにて主にデータ分析やマーケティングに従事。2017年9月メルカリに入社し、US事業のGrowth Marketing / CRMを担当。グロース基盤としてのBrazeの導入、セグメントごとに最適化されたプロモーション、レコメンデーションの開発などグロース業務全般に従事。

CRMとしての2つの課題と導き出された改善点

 CRMの主なミッションとして、「お客様一人ひとりに合わせて最適なタイミングで最適なメッセージを送り、カスタマーエンゲージメントを最大化することにある」と現王園氏は話した。

お客様には新規・既存のお客様や、高頻度でアプリを使ってくださっている方など、たくさんのお客様がいる中で、興味のあるカテゴリーやブランドはそれぞれ異なる。多様なお客様一人ひとりの嗜好に合わせたアプローチを行うことがCRMとして重要なポイントになってくるが、メルカリUSでも初めから的確に対応できていたわけではなく、具体的な改善点は見えていなかった。

 そのような中、プッシュやメールのABテストを1つ行うことにも都度エンジニアのリリースが必要であり、工数と時間がかかってしまっていたことに気がついた。また、CRMのトラッキングデータが完全な状態ではなく、「誰に」、「何を」、「どのくらい」、送っているのか、「パフォーマンスはどうなのか」というシンプルな分析でさえ難しく時間を要してしまっていた。「次の打つ手」が不明瞭であったことから、前述した2点が重要な課題であると考えた。

 そうすると、自ずから3つの「今すべきこと」が見えてきた。1つ目は、データの一元化を行い、全てのコミュニケーションと反応率をカスタマーデータとして蓄積し、トラッキングしていくこと。今までの自社データとつなぎ合わせることにより、より深掘りされた分析ができるようにデータの基盤を構築することだ。

 2つ目はセグメンテーション。これまでは同一のメッセージを一斉に送信するようなコミュニケーションだったが、お客様のライフサイクルやアクションで適切なコミュニケーションを取れるように細かくセグメントしていく必要があった。

 最後に、実装とテストの高速化。「お客様が次のフェーズに向かうためのプログラムを実装し、改善し続ける基盤を作ることが大事です。」と現王園氏は述べた。

 お客様の重要なイベントは追っていく必要がある。なので、簡単なカスタマージャーニーを作成し、新規から入って「検索・商品閲覧・カートまで行ってキャンセルになるか、そのまま購入まで進むのか」、「キャンセルした方の次回アクションはどうするのか」、「逆に購入された方にもう一度買ってもらうためにはどうするのか」などの細かいアクションをカスタマーイベントやレビューとしてどんどん蓄積していくことにした。

 そしてそれぞれのお客様の重要なアクションを洗い出していき、それらのアクションをトリガーとしたキャンペーンをリストアップし追加していった。

 例えば、オンボーディングステージにいるお客様には、商品閲覧というよりパネルの高いイベントを使い、商品の価格が下がったらライクなどの次のアクションを促すように仕向けた。こうすることにより、もともとパーソナライズされていないジェネラルだったお客様が、属性や行動に基づいたイベントベースなCRMを実現することができた。

メルカリUSはどのチャネルや機能を活用したのか?

 「現在はプッシュやEメールはもちろん、アプリ内のモーダルなどもシステム統合し、全てのコミュニケーションを一括して行える環境を構築し管理しています。」と現王園氏は話した。

 メルカリUSはアプリがメインのサービスになるので、Push notificationも一つの重要なチャネルになっており、全ての重要なカスタマージャーニーにおいて通知が送れるように実装している。

 例えばインストール直後の新規客に向けたオンボーディング用のメッセージ。初めて出品するお客様向けの出品ガイド。さらに、カートに商品を入れたお客様に、何時間後かに商品に関するリマインドを送り、購入促進を行う。他にも、トランザクションのメッセージやコンファメーションメッセージ。これらを全てシステムで行えるようにしている。他にも、EmailやApp messages,Content card,Webhookも活用している。

売上げ増加と昨年対比184%の結果を出したメルカリUSのプロモーション成功事例とは

売上げ増加と昨年対比184%の結果を出したメルカリUSのプロモーション成功事例とは

 実際の成功事例を現王園氏に伺った。

 期間内の出品数を伸ばしていき、供給を増やす目的として行われたプロモーションであり、供給を伸ばしてクーポン配布を行うことにより需要を増加させる相乗効果を狙った。事例はアクティブにメルカリを使っている出品者向けのキャンペーンとなっている。

 まず、出品者に期間内の出品数に応じたボーナスを付与する。3段階に設定された目標に応じてクーポンを配布するシステムとなっている。設定されたのは出品数10個で5ドル、15個で10ドル、30個以上で20ドルのクーポンをもらうことができる。達成度に応じたクーポンを発行することにより、マイルストーンの促進になると考えたためだ。

 結果として、8.5%の売上げ増加と昨年対比184%と予想以上の功績を叩き出すことができた。

 もちろん最初から結果が出たわけではなく、何回も試行錯誤を行い、「どのセグメントに効果的なのか?」、「マイルストーンの最適値はどこなのか?」など、何回もテストを繰り返すことが結果につながった。スピード感を持ってセグメントごとにアイディアを持って検証していくことが、CRMに求められる行動と言えるのだろう。

「一回一回のテストに時間をかけることは、改善し続けることが難しくなってきます」と、現王園氏は述べた。

 まずシステムで検証したいセグメンテーションを作成し、ABテストのコントロールとテストグループに振り分ける。テストを振り分けたらテストグループに関してコミュニケーションチャネルをフル活用し、プロモーション認知をあげる。

 プロモーションは初めたら終わり、というわけではないので、期間内の効果を最大限にするためにリマインダーを送る必要がある。期間内の出品数をリアルタイムで取得し、達成度に応じて次のマイルストーンに行くためにはあと何個出品したらいいかなど、よりパーソナライズされている効果的なリマインダーが送られ、キャンペーン期間終了後には達成度に応じてクーポン配布が行われる。

 期間内のユーザーの出品数というのがリアルタイムに取得できるからこそ、取得した出品数をメッセージに挿入することで、「今は10個出品中。あと5個出品したら15ドルのクーポンもらえますよ」という具体的なリマインダーを送ることができる。そして効果的なリマインドを送ることにより、プロモーションの効果を最大化することができる。

このように対象オーディエンスの AB テストの振り分けから全ての必要なコミュニケーション、または期間内の出品数の取得やクーポンの配布など、このプロモーションに必要な全ての一連の流れがシステムで一本化できることによってキャンペーンを思いついた時にすぐ実行に移すことができる。出品数を変えてみたり、セグメントを変更したり、セグメントの評価等も非常にスピーディーに行うことができる仕組みにしたことにより、効果を十分に発揮することができたのかもしれない。

 元々は AB テストに時間がかかっていたり分析もしっかり行えていなかったが、そこから現在に至るまですべてのチャネルを一元化したことによって複数のチャネルを組み合わせてのコミュニケーションが取れるようになった。リーチを最大化し、ユースケースごとに最適なチャネルを行えるようになったことも大きいポイントだ。

 「お客様の重要なライフスタイルや行動に対して適切なアクションを取れるようになったかなと思っています。また AB テストのシステム上のキャンペーンでできることが今非常に増えているのでマーケターだけでそのようなことを行えるようになりました。結果的に施策数が増えてコミュニケーションのスピードも上がったかなと思っています 。」と、最後に現王園氏はコメントした。