複雑化するビジネス課題を乗り切るカギは「外部人材」 HiPro事業責任者に聞く、副業/フリーランス人材の活用法【パーソルキャリア・鏑木氏インタビュー】

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 コロナ禍でリモートワークが一般化し、生成AIやDXで業務効率化をはじめとするさまざまな課題を解決するという動きが高まるなど、ビジネスを取り巻く環境は大きく変化している。変化の潮流は人材にも及び、厚労省が「副業・兼業の促進に関するガイドラインを制定するなど「新たな働き方」の注目度が高まっている。企業側にもメリットの多い外部人材の活用を推進するべく、パーソルキャリア株式会社は副業・フリーランス領域を担うサービスとして、2022年に「HiPro(ハイプロ)」をローンチした。同社執行役員でHiProの事業責任者を務める鏑木陽二朗氏に、「スキルを解放し、社会を多様にする」ことをコンセプトに掲げたHiProの開発背景やHiProを通じて活用できる人材、実際の導入事例などを伺った。

外部人材の活用で経営課題を解決

—— HiProの簡単な紹介をお願いします。

パーソルキャリア株式会社執行役員鏑木陽二朗氏(以下、「鏑木」):HiProは副業・フリーランスのプロフェッショナル人材の総合活用支援サービスです。企業は事業課題を解決できる人材と出会うことができ、個人は自分のスキルにあったプロジェクトを探すことが可能です。サービス内容としては

  • プロフェッショナル人材による経営支援サービス「HiPro Biz」
  • IT・テクノロジー領域特化型エージェントサービス「HiPro Tech」
  • 副業・フリーランス人材マッチングプラットフォームサービス「HiPro Direct」

の3種類を提供しています。全体の登録者は5.7万人(2024年3月末)で、そのうちマーケ領域の登録割合は7.2%となっています。

パーソルキャリア株式会社執行役員「HiPro」編集長 兼「HiPro」事業責任者 鏑木 陽二朗(かぶらき ようじろう)氏 
2001年株式会社インテリジェンス(現:パーソルキャリア)入社。企業の採用支援や、転職希望者のキャリア支援などを経験し、その後複数の部署でマネジメントに従事。2011年に、プロ人材による経営支援サービス「i-common」(現:HiPro Biz)を立ち上げ、事業責任者として組織を牽引し、2021年10月には執行役員に。2022年5月、業界初となるプロフェッショナル人材の総合活用支援サービス「HiPro(ハイプロ)」の立ち上げを行い、HiPro編集長に就任。

—— HiProのローンチ背景についてお教えください。

鏑木:「人生100年時代」が叫ばれて久しい昨今では、コロナ禍でリモートワークが普及・浸透したことや、政府による副業・フリーランス人材の活用推進など、雇用や働き方を取り巻く環境が大きく変化しています。DXや生成AIなどで企業を取り巻く環境も劇的に変化しており、産業構造にも変化の波が押し寄せているのが現状です。

 こうした変化によってビジネス課題もより複雑化しており、企業が抱える課題解決に、自社の社員だけでは対応しきれない状況も発生しています。こうした現況を打ち破し新しい人材活用を「当たり前」にするためにローンチしたのがHiProです。

—— マーケティング領域においては、どのような課題を抱えた企業からの引き合いが多いのでしょうか。

鏑木:コロナ禍により非対面コミュニケーションが一般化したことで、販売手法もWeb上へシフトしました。そのため、ECサイトでの販売やWebでのマーケティング・PRを強化していきたいというニーズが現在も多く寄せられています。

 Web上で物販を行う企業の多くは、顧客獲得のためにデジタルの活用を検討しています。そのため、Webマーケティング戦略全体のコンサルティングやアドバイスができる上流工程の経験を持つ人材や、コンテンツマーケティングにおけるコンテンツ配信戦略や効果測定スキルは高い市場ニーズがあります。Web広告やSEO対策に関する業務経験者などの需要も高いので、マーケティング人材は幅広い業界からニーズがあると感じますね。

『外部人材を活かすカギは「明確化」』

ハイクラス人材を活かすカギは「明確化」

—— そうした課題を解決できる人材は、どのようなスキルセットや志向性を持っているのでしょうか。

鏑木:マーケティング領域における業務経験やノウハウ・専門知識はもちろんですが、自ら課題解決に向けて考えられる方です。相手からの指示で動くのではなく、自発的にアクションを起こし、成果に繋げられる人材が求められています。

 具体的なスキルとしては、マーケティング全般における戦略設計に知見や経験を持っている人材の引き合いが多いですね。また、デジタルマーケティングに特化したスキルを持った人材も需要が高いです。

—— HiProに登録しているマーケターは、どのような経歴を持った方が多いのでしょうか。

鏑木:複数社にてマーケティング領域を長年経験した方が多いですね。上流の戦略的な話から、現場に合わせたレクチャーまで相手に合わせた対応など、幅広く対応できる方にも登録いただいています。支援内容としては、ECサイトの運用・構築はもちろん、リサーチや分析・企画や戦略立案など多岐に豊富な知見を持ってプロジェクトに参画することも可能です。

実際に、「HiPro」で活躍されている方の中には、累計500件以上の支援をされた方もいらっしゃり、幅広いフィールドで活躍している方が多いです。

—— 外部人材の活用を成功させるには、何がポイントになるのでしょうか。

鏑木:フリーランサーや副業人材に対しては、業務範囲やスケジュール・連携の頻度などを明確にしておくことが重要です。アウトプットのイメージや、機密事項の取扱い範囲・守秘義務などのルールを周知しておくことも欠かせません。社内の関係者と、こうしたルールや外部人材との関わり方をしっかり確認することもポイントですね。

業務を提供する「準委任契約」、成果物の報告をもって完成とする「請負契約」など、業務委託にかかる契約形態を理解したうえで活用することが求められます。こうした法的な専門知識やノウハウも不可欠だと言えますね。

月2~3回のスポット的な活動でも大きな成果

—— HiProのマーケティング人材活用の導入事例についてお聞かせください。

鏑木:プライム市場に上場している大手メーカーでの事例なのですが、この企業ではWebサイトやカタログが製品別・地域別に展開されており、デザインやブランドイメージ・顧客へのメッセージなどがコーポレートとしての一貫性を欠いている状態でした。さらに一部の部署でセールスツールを導入していたのですが、運用がサイロ化されており他部署との情報共有ができていないという課題がありました。

 こうした課題に対してHiProのプロ人材がプロジェクトに参画、以下4点の施策を行いました。

  • マーケティングオートメーションを用いた施策(シナリオ設計、自動化、スコアリング設定等)の設定支援
  • Webサイト、マーケティングオートメーション、CRM等の活用支援
  • デジタルマーケティング戦略立案支援
  • グローバルWEBシステム構築支援(サイト統合方針)

月3回で月間24時間の活動でしたが、24ヵ月で改善に至っています。

 同じく上場企業の例を挙げると、自社で運営するECサイトにおけるtoC向け製品の販売数が伸びず、対象地域で売れていないという問題を抱えている企業もありました。母集団を増やすことに課題感を感じているものの、他エリアからの集客にあたって戦略・戦術の立案ができていないことからご相談いただき、経験豊富なマーケターを提案いたしました。

 この方は月2回の頻度でプロジェクトに参画されたのですが、上流のマーケティング戦略から内製化、戦略・戦術立て、実行までの支援サポートを行いました。訴求点判断のため、2種類の購入ページを制作し、それぞれのページにおけるCVRを獲得することで、訴求点をより明確にすることが出来ました。

実行フェーズに関しては、専門外の内容が含まれることもあるので、こちらからご提案する際には他の外部人材とチームを組んで取り組んでもらうことも想定していましたね。

小田急電鉄事例

—— 業界全体の今後の展望についてお聞かせください。そのなかで、HiProはどのような役割を担っていくのでしょうか。

鏑木:少子高齢化や労働力人口の減少などのさまざまな要因によって、日本経済は低迷しています。各国との競争力も差が開くばかりであり、昨今では生成AIをはじめとする新たなテクノロジーも台頭する中で、企業を取り巻く環境も劇的に変化していると思います。

 企業は競争力を向上させ新たな収益源を確保するために、イノベーションや新規事業を起こす必要に迫られています。しかしながら、事業を推進する人材を確保することは年々難易度を増しており、従来のような雇用契約だけでは労働人口の根本的な解決を図れないことは明白です。HiProとしては従来型の雇用に加えて、副業・兼業プロ人材の活用が当たり前になる社会を作り、企業・個人、そして社会の成長に貢献していきたいと考えています。

—— マーケティング人材を採用したい企業に向けて、最後に一言お願いいたします。

鏑木:現在、副業・フリーランス市場は「買い手市場」です。加えて、業務委託の場合はプロジェクト単位で業務を委託できるので、業務を切り出したうえでスポット的に業務を依頼することが可能です。そのため、正社員雇用と比較して費用を抑えることができるというメリットがあります。

 HiProでは「雇用」に捉われることなく、さまざまな形で人材を受け入れる企業を増やしていきたいと考えています。今後は、副業人材・フリーランスを中心に幅広い人材が企業の戦力となり、会社の成長につながる、新しい時代を切り開いていきます。自社の課題解決策のひとつとして、外部人材活用も検討してみてはいかがでしょうか。

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「HiPro」はパーソルキャリア株式会社が展開する、副業・フリーランスのプロフェッショナル人材の総合活用支援サービスです。「スキルを解放し、社会を多様にする。」をパーパスに、これまでの経験とスキルを活かしながら自身の可能性を広げたい個人と、複雑化する課題に対応したい企業に選択肢を増やし、社会を多様にすることを目指しています。現在、企業間での副業を推進する「相互副業プロジェクト」、都市部で専門的な経験を積み、地域に特別な想いを持つ人材と地域の企業をつなぎ、地域企業と経済発展への寄与を目指す「スキルリターンプロジェクト」に取り組んでいます。

【取材後記】

2022年に総務省が行った調査(※1)によると、日本のフリーランス人材は209万人だという。フリーランスを選んだ理由については「専門的な技能等を生かせるから」が最も多く、32.5%を記録。自らの技能を多くの企業で役立てたいという、熱意ある人材が多いと言えそうだ。

 

次いで多かったのが「自分の都合のよい時間に働きたいから」という選択肢であり、趣味などの活動と両立を図るためにフリーランスという働き方を選んだ人も一定数いると思われる。外部人材の活用の際はこうした先方のニーズと合致することで初めて人材の「獲得」が可能なため、事業主という「取引先」を相手にするという意識で、面談や打ち合わせなどの「商談」に臨むことが求められる。

 

正社員の採用・雇用継続にかかる費用と比較するとハードルが低く、社外の優秀な人材をフレキシブルに活用できるHiPro。ハイスキルの副業/フリーランス人材という新たな風を社内に吹かせることが、イノベーションにアジャストして市場で生き残るための「変革」の第一歩となる企業も多そうだ。

※1:基幹統計として初めて把握したフリーランスの働き方 ~令和4年就業構造基本調査の結果から~

構成:MARKETIMES編集部・中島佑馬